第7話

後手、風音星來かざとせいら


 

彼女は共演者である名脇役の俳優について語る。



「あの人、渋くて味があるし、演技も自然体で超一流俳優さんよね。ほら、どのドラマでも主人公はただのお飾りで、周りの脇役には演技力の高い俳優さんを使うじゃない?あの人は主役やったことないもの。」 


 

確かに。主人公って顔の良さと人気の高さだけで使われて、演技力は求められないことが多いよね。



星來はテーブルに並べられたお菓子をすみっこに追いやり、リュックからスルメを取り出すと噛み始めた。あごの発達を促すため、母親から持たされているものだ。



虫歯予防のためにもなるべくお菓子は控えなさい。ただし必ず出されたら「食べれなくてごめんなさい。ありがとうございました。」をスタッフさんに伝えるようにしなさいと言われていた星來。



イメージ作りはスタッフさんへの配慮から始まるのだ。


 

「でもあの俳優さん、有名な監督さんの甥っ子だって知ってた?本人は実力で勝負したいから叔父さんのことは隠してるらしいんだけど、それってただ実力でのし上がったように見せたいだけじゃない?」



見栄を張るのも俳優や女優業の一環だと両親には教えられてきたが、幼い星來にとってはそれが道徳的に正しいものだとは思えなかった。



「芸能界は歯も命だけど、血縁関係ほど重要なものはないわ。スカウト?シンデレラストーリー?ないない。」



目の前にいる朱朗は、星來の言葉に大きくうなずく。



「芸能界なんてどこもかしこも血縁血縁じゃない。あのアニソン歌手が大物演歌歌手の姪っ子?あのパリコレモデルが大手プロダクション社長の孫?ふふ、もしかして芸能界皆家族なんじゃない?」



鼻で笑う星來は、昭和から語り継がれる超有名脚本家のひ孫だった。



星來の兄も星來も、幼少期から曽祖父が脚本を手掛けていた劇団に所属していた。しかしやる気のある兄よりも、あまりやる気のない星來の方が演技に長けており、見た目のオーラも手伝ってか女優の芽が出てしまった。



ただし星來は、あくまでも死んだ曽祖父の力だと言い張る。

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