第3章 第2話 「地の利を活かして」
優斗は、再び島袋に内線を入れようとしたが、なかなか繋がらなかった。「どうなっているんだ?」と焦りを感じながらも、目の前の状況に集中しなければならないと自分を奮い立たせた。優斗は、我如古と共に「それ」と対峙し続けていた。「それ」は人間とは思えないほどの力を持ち、暴れ回っていた。力任せに突進し、次々と警備員たちを押し倒していく。「直接触れるな! 物を使え!」と我如古が指示を飛ばしていたが、既に負傷者が出ている状況だった。
我如古の指示は的確で、無駄がなかった。彼の動きや判断力から、優斗は「この人はこういう状況に慣れているのだろうか?」と感じた。我如古の真剣な表情は頼もしかったが、それを目の当たりにする自分は、何もできず茫然としているだけだった。
(なんで…なんで何もできないんだ!)
優斗は心の中で叫んだ。自分の無力さが悔しくて仕方がなかった。隣で我如古が迅速に指示を出し、状況を少しでも好転させようとしているのに、自分は立ち尽くしているだけ。「事務所に残した部下たちへの指示だって上原さんに丸投げしたままだ…」と自己嫌悪に陥る。
そんな中、優斗はふと「それ」の奥に目を向けた。今のところ、襲撃しているのはせいぜい10数体。だが、これはショッピングセンターだ。ここは自分が長年働いてきた場所であり、地形や設備については熟知している。冷静に考えれば、勢いだけで攻めてくる「それ」たちより、地の利はこちらにあるはずだ。
「やれることはある…はずだ!」
優斗はその考えに基づき、我如古に近づいた。
「一度、この集団を引き離しましょう!それでフードコートに誘導するんです」と提案する。
我如古は一瞬フードコートの方向を見てから、「なるほど」と頷いた。そして部下たちに向けて、「全員ゆっくり後退しながらフードコートへ向かうぞ!無理をするな!」と指示を出した。優斗もその動きを見守りながら、頭の中で次の手を考えていた。
フードコートでは、島袋たちが道具を持って待機していた。それに、織田美香の姿もあった。優斗は彼らに向けて大きくジェスチャーをし、「今からそっちに向かう」と伝えた。島袋もそれを理解したのか、その場に留まり、道具を下ろし始めた。
「これで少しは状況を好転させられるはず…」
そう考えながらも、優斗は自分の提案が本当に有効なのか不安で胸がいっぱいだった。少しでも状況を変えたいという思いだけで行動している。
優斗は我如古に一言断りを入れ、島袋たちと先に合流することにした。その間も我如古は、冷静な指示を続け、後退しながら「それ」をフードコートの方へ誘導していた。優斗が島袋たちに到着した時、島袋は道具の準備を終えており、美香もそばで確認作業をしていた。
「島袋、来てくれてありがとう」
「この道具で本当に何とかなるかは分からないが…」島袋は険しい顔をしながらも、少しだけ頼もしさを漂わせた。
「今はそれで十分です。どうにかして流れを変えないと!」
優斗はそう言って、再び我如古たちの状況を見守った。彼らはフードコートの入口まで「それ」を誘導することに成功していた。
「ここからが勝負だ…!」
優斗は自分に言い聞かせるように呟き、作業に取り掛かる準備を始めた。
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