第2章 第22話:逆転への一手
ミナが加わったことで、彩菜の心境にも変化があった。先ほどまで恐怖に怯えていた表情が、今では活力に溢れている。「これならいけるかもしれない」とおばぁが援護の提案をしようとしたその時、彩菜が口を挟んだ。
「私はミナさんの援護をします。おばぁは、我如古さんの援護をお願い!」と、彩菜は力強く言い放った。
驚くおばぁをよそに、彩菜は我如古の元に走り寄り、「我如古さん、おばぁの近くから離れないでくださいね。おばぁが援護してくれますから!」と告げると、返事も待たずに再びミナの元へと走っていった。
「ミナさん、私が援護すれば、あの大型ゾンビを倒せそうですか?」
彩菜の問いに、ミナは冷静に首を横に振る。「無理だな。不意打ちで一撃を喰らわせたけど倒しきれなかった。それに、あいつには怨霊がいない。ただのゾンビだ。周りのゾンビたちも、怨霊が召喚したものだと思う。おそらく近くにまだ別の存在がいるはずだ」
そう言いながら、ミナは周囲を見渡したが、ゾンビの群れで視界が遮られ、うまく状況を把握できない。
「それなら…」
彩菜はそう言って、護符を手に取り、祝詞を唱え始めた。「魂を浄め、闇を払え!我が力よ、ここに集え!」周囲の空気がピリッと張り詰めたかと思うと、彩菜の前にいたゾンビたちが次々と黒い煙を上げて消えていく。
「…ほう、やるじゃないか」ミナが感心したように目を細めた。
「大型ゾンビは私たちが注意を引きます。ミナさん、怨霊を探してください!」彩菜はそう提案し、迷いなく大型ゾンビに向かって突進していった。
彩菜は自分がミナの力で状況が一変することを期待していた。だが、ミナから返ってきたのは冷静な分析で、「変えられない」という現実だった。彩菜は内心が揺れるのを感じたが、同時に「怨霊」という言葉を聞いた時、ミナの体からわずかに黒い感情が漏れたのを見逃さなかった。
(このままミナと一緒にいるのも怖い…けど、この状況で大型ゾンビの注意を引けるのは私しかいない)
心の中で葛藤しながら、彩菜は再び護符を握りしめ、「行くしかない!」と決意を固め、大型ゾンビの前に立ちはだかった。
「闇を祓い、穢れを浄めよ!我が声に応え、力を与えたまえ!」
彩菜の祝詞が響くと、空気が重く揺らぎ、大型ゾンビの動きが一瞬止まった。しかし、その巨大な体はゆっくりと彩菜に向き直り、不気味なうなり声を上げ始める。彩菜は足が震え、背筋に冷たい汗が流れるのを感じたが、「ここで退くわけにはいかない」と必死に自分を奮い立たせた。
「ぐぅぅぅぅ…ガァァァァ!」大型ゾンビが唸りを上げ、一歩、また一歩と彩菜に近づいてくる。その地響きのような足音が、彩菜の心臓を激しく揺さぶった。
「まだ…まだ…!」
彩菜は息を詰め、護符をさらに強く握りしめ、再び祝詞を唱えた。「力よ、我に集え!浄めの光となり、この者を焼き尽くせ!」
その瞬間、護符が淡い光を放ち、大型ゾンビの体に当たった。光がじわじわとゾンビの体に染み渡ると、その場に立ちすくんでいたゾンビが一斉に灰色の煙を上げ始めた。
「これでどうだ…!」彩菜が息を切らしながら見上げると、なんと大型ゾンビの体が徐々に溶けていくかのように崩れ始めていた。
「まさか…消滅する…?」彩菜は信じられない思いでその光景を見つめていた。
だが、安堵する間もなく、大型ゾンビの周りにいた他のゾンビたちが再び現れ、彩菜とミナの前に立ち塞がった。その復活ぶりに、彩菜は息を飲んだ。
「くっ、しつこい…!」彩菜は再び護符を構え、祝詞を唱えようとした。しかし、その時、ミナが冷静に言った。
「彩菜、今は無理をしないで。怨霊を探し出さないと、いくら倒しても復活するだけだ」
ミナの言葉に彩菜も気づきを得て、一度深く息を吸い込んだ。そして改めて、大型ゾンビと群がるゾンビたちを睨みながら、「やらなくちゃ…」と決意を新たにした。
「さあ、もう一度行こう。私はあの怨霊を見つけるまで負けない!」
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