第2章 第21話:再び集う力

彩菜は、大型ゾンビを前に、自分の力が足りないことを痛感していた。少しずつ霊能力を引き出せるようになったものの、こんな強大な相手を倒すのは今の自分には到底無理だと感じていた。一方、我如古はその考えも知らず、まっすぐ大型ゾンビへ向かって突き進んでいく。周囲のゾンビたちを次々と打ち倒し、道を切り開くその姿は頼もしいが、同時に無謀に見えた。


「くっ、止まってよ、我如古さん!」彩菜は小声で叫ぶが、彼の勢いは止まらない。おばぁは彼の援護をしようと前進を試みるが、思うように体が動かず、何とかしてゾンビの群れを避けながら彩菜のもとに辿り着いた。


「無事か、彩菜?」おばぁが息を整えながら問いかける。


「ええ、でも…私、我如古さんの助けになる自信がなくて…」彩菜は苦しそうに答える。


「今は躊躇してる場合じゃない。あんたも少しずつ力を覚え始めとる。行こうや!」おばぁは強く彩菜の手を握り、共に我如古の援護に向かうことを提案した。


しかし、彩菜の心は揺れていた。自分が何か助けになるのか、ただの足手まといではないか。そう思うと、足が震え始め、動けなくなってしまう。


「そんなこと言っとる場合かい!我如古があの化け物にやられてしまうぞ!」おばぁが叱咤するように叫ぶが、彩菜の心は動かない。震える足を動かそうとしても、どうしても前に出ることができなかった。


その様子を見かねたおばぁは、突然彩菜に平手打ちを食らわせた。鋭い音が辺りに響き、彩菜は目を見開いて驚いた。


「何やってるんだい、あんた!自分の力を信じんで誰が我如古を助けられるんじゃ!」


その言葉が彩菜の心に突き刺さり、まるで意識が覚醒するかのような感覚が広がった。その瞬間、どこからともなく呪文が聞こえ、周囲にいたゾンビたちが一斉に浄化されて灰となり、消えていった。


「…あれは…」


彩菜が呆然とする中、おばぁも我如古もその光景に目を奪われていた。だが、彩菜だけはその波動に覚えがあった。かつて祭りの会場で見た、あの強力な力。その者が再び姿を現したのだと直感で理解した。


その時、彩菜とおばぁの横を疾風のように駆け抜ける影があった。見る間に我如古のそばも通り過ぎ、そのまま大型ゾンビの前に立ちはだかる。そして、呪文を唱えた瞬間、大型ゾンビが膝をついて動きを止めた。


「ミナ…!」彩菜は呟いた。目の前に現れたのは、祭りの夜に出会ったミナだった。


「これでも倒れないなんて…信じられない…!」ミナは驚愕の表情で呟く。さらにもう一度呪文を唱えようと構えたその瞬間、どこからか新たなゾンビが現れ、ミナに向かって襲いかかってきた。


「危ない!」彩菜は思わず叫んだが、ミナはその攻撃に反応が遅れ、迫りくるゾンビの一撃を避けきれないかと思われた。しかし、ゾンビの攻撃が彼女の体に触れる寸前、見えない壁ができたかのように攻撃は彼女に届かなかった。


「これは…加護の力?」ミナは驚き、視線を彩菜に向けた。彩菜はとっさに加護の祝詞を唱え、ミナを守る力を発動させていたのだ。しかし、この加護の力も長くは保たないことをミナは直感で悟った。


「この一瞬で仕留めるしかない…!」ミナは鋭い目でゾンビを見据え、再び呪文を唱え始める。その呪文の言葉が力強く響き渡り、目の前のゾンビを一撃で浄化することに成功した。


しかし、倒したはずのゾンビたちが再び起き上がり始め、再びミナと彩菜たちに迫りくる。「一体どうなっているの?これじゃきりがない…!」彩菜は冷や汗を流しながら、増殖するゾンビに絶望的な気持ちを抱いていた。


ミナは息を整え、厳しい表情で再び構えをとった。「これ以上の呪文は体力を消耗するけど、やるしかない…彩菜、君も協力して!」


彩菜も再び護符を手にし、心の中で自分の力を奮い立たせた。ゾンビたちに負けるわけにはいかない――その思いで、彩菜は次の祝詞を唱える決意を固めた。


戦いはまだ続く。彩菜たちの前には次々と新たなゾンビが現れ、さらに大型ゾンビが立ち上がろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る