第2章 第20話「巨影との邂逅」
朝の光が少しずつ柔らかくなり、三人が到着した宜野湾ビーチはひんやりとした静けさに包まれていた。しかし、その静寂を切り裂くような異様な光景が、彼らの目に飛び込んできた。
砂浜の中心には、まるで巨人のような体格のゾンビが立っていた。その大型ゾンビは無数のゾンビたちを足元で踏みつけ、次々に殴り倒していた。驚くべきことに、倒されたゾンビたちは地面に崩れ落ちた瞬間、まるで霧散するように消え、またどこからともなく新たなゾンビが現れる。その繰り返しに、彩菜とおばぁ、そして我如古は立ち尽くした。
「…一体、何が起きてるの?」彩菜はかすれた声で、おばぁに問いかけた。
「仲間割れ…じゃないよね?」その言葉には、冷静さを保とうとする彩菜の戸惑いが滲んでいた。おばぁは首を横に振り、目を細めてその光景を睨みつけた。
「いや、あれは異常個体じゃ。普通のゾンビとは違う、力も桁外れに強いはず…」
「異常個体…」彩菜は、その言葉の意味を理解しきれないまま、大型ゾンビに視線を戻した。近づけば、一瞬で見つかるだろうという圧倒的な威圧感が、距離を置いた場所からでも肌を刺すように伝わってくる。今はただ、息を殺して様子を伺うしかなかった。
だが、我如古にはその異様な気配を感じ取れないらしい。顔を青ざめた彩菜たちを心配そうに見つめた後、意を決したかのように腰に下げた警棒を抜き取った。
「おれが一発お見舞いしてきます!」そう言って、我如古は勢いよく大型ゾンビに向かって駆け出した。
「待って、ダメ!」彩菜は必死に声を上げるが、我如古の耳には届かない。おばぁも「無謀じゃ!」と叫ぶが、すでに遅かった。彩菜は、ただ見守るわけにはいかないという一心で、すぐに我如古の後を追いかけた。
「おばぁ、私、行くよ!」護符を強く握りしめ、彩菜は自分にできる限りの祈りの祝詞を唱え始めた。「清き風よ、彼を守り給え…」
護符を通して放たれた祈りの力が我如古を包み込み、彼の足元を淡い光で守る。彩菜の力が届いたのか、我如古は振り返って拳を握りしめ、目の前の大型ゾンビに向かって再び突進した。
しかし、次の瞬間――
その異様な存在に気づいたかのように、大型ゾンビに群がっていた他のゾンビたちが、我如古に一斉に襲いかかった。数え切れないほどの手が我如古の体を捕らえようと伸びてくる。彩菜は、祝詞の効果が続いていることを信じ、さらに強い祈りを込めて護符を握りしめた。
「闇を祓い、穢れを浄め、清浄なる力を与え給え…!」
護符から放たれた光が我如古を守り、襲いかかってきたゾンビたちが体を痙攣させて後退していく。だが、それでも彼らの動きは止まらない。大型ゾンビの圧倒的な支配力のもと、ゾンビたちはまるで自らを犠牲にしてでも二人を取り囲むように動いていた。
「やるしかない…!」彩菜はさらに祈りの祝詞を唱え、護符からの光を強く放った。「浄化の風よ、穢れを取り払い、悪しきものを封じ給え!」
光の力を受けたゾンビたちは一瞬立ちすくんだが、大型ゾンビが鋭い咆哮を上げた瞬間、再びその攻撃性が戻り、今度は彩菜に向かって襲いかかってきた。
「くっ…!」彩菜は護符を握りしめ、必死に祝詞を続けたが、相手の数が多すぎる。
「ありがとうよ、彩菜!」我如古もその光に守られていることを感じ取り、警棒を手に次々とゾンビたちを殴り飛ばし、なんとか大型ゾンビに近づこうとしていた。だが、大型ゾンビが巨体を揺らし、二人を睨みつけた瞬間、その怒りに満ちた視線が二人を圧倒するように押し寄せてきた。
「これ以上近づいたら、私たちも危ない…」彩菜は息を飲みつつも、決して後退しない我如古に勇気をもらい、次の祝詞を強い決意で唱えた。
「光よ、我を導き、邪悪を滅せよ!」
その光が一瞬、大型ゾンビの体を包み込むと、彼がわずかに足を止めた。しかし、その瞬間、ゾンビたちが再び二人に向かって猛然と突進してくる。彩菜と我如古は必死でそれに応戦し、周囲にはゾンビの体が次々と崩れ落ちていくが、決して止まることはなかった。
彩菜は、まだ祝詞が完全に力を発揮していないことを感じながらも、護符をさらに強く握りしめ、震える声で祈りを捧げ続けた。
「どうか…どうか、私たちを守り給え…!」
その祈りは届き始めているが、まだ彼らを完全に救うには至らない。大型ゾンビとの対峙は、まだ終わりが見えない。
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