第2章 第18話「夜の対話」

彩菜たちは、食料を分けてもらったことに感謝を伝えながら、集まった生存者たちに宜野湾ビーチの様子について尋ねてみた。ここに来る前、ビーチの方角から異様な気配を感じており、それが何なのか確かめたいという気持ちがあったからだ。


しかし、集まった生存者の中でビーチの状況を知る者はいなかった。特に体格の良い男も「知らないな」と首を振りながら答え、困惑した様子を見せた。どうやら、ここにいる誰もがビーチに関しては無関心だったようだ。


その時、一人の青年が口を開き、「そういえば、自己紹介してなかったな」と言い出した。彼も警棒男の騒ぎで自己紹介するタイミングを逃していたようだ。青年は軽く手を挙げて立ち上がり、堂々とした口調で自己紹介を始めた。


「俺は島袋光、宜野湾シティの清掃員だ。こんな状況だから、名前を知ってもらった方がいいと思ってさ」


その言葉に、先ほど体格の良い男も頷きながら自己紹介を始めた。

「光の言う通り、名前を知ってる方が呼びやすいな。俺は、宜野湾シティの施設警備をしてる、我如古だ」

と名乗り、続けて少し申し訳なさそうな顔で話を続けた。

「先の一件では、あんたたちに不愉快な思いをさせてしまった。すまない…」と、頭を下げて謝罪した。


彩菜は彼の誠実な態度に少し安心し、頭を軽く下げて感謝の意を示した。その後、彼女も仲間と共に自己紹介を始めたが、霊能力や巫女であることについては触れずに留めた。一方で、おばぁは自らの霊能力について語り始め、彩菜が警棒男から守られたのも、その力によるものであったことを簡潔に説明した。さらに、「警棒男には怨霊のようなものが取り憑いていた」と話すと、生存者たちの表情には驚きと不安が浮かんだ。


「怨霊…そんなものが本当に存在するのか?」と光が半信半疑で呟いたが、おばぁの真剣な表情を見て、次第にその言葉を信じ始めたようだった。周囲には不安の空気が漂い、生存者たちは互いの顔を見合わせていた。


一通りの対話と自己紹介が終わり、彩菜は再びビーチの様子を見に行くことを提案し、改めて食料を分けてくれたことへの感謝を告げて外に出ようとした。しかし、ふと窓の外に目をやると、すでに日はすっかり沈み、辺りは暗闇に包まれていた。


その様子を見た我如古が、ふと気遣わしげに彩菜に声をかけた。「時間も遅いし、今夜はここに泊まっていけばどうだ?外は危険が多すぎる。ここなら寝具も余っているし、みんなで身を寄せ合って過ごした方が安全だろう」


彩菜は、彼の提案に一瞬迷ったが、体の疲れが限界に近づいていることに気づいたため、その申し出をありがたく受け入れることにした。「ありがとうございます。助かります」と、彩菜は深く頭を下げて礼を言った。


「明日は太陽が出てから、ビーチの様子を見に行くつもりです。その足で、北谷の大騒動についても確認したいと思っています」彩菜はおばぁにそう伝え、彼女も軽く頷いた。


夜が更けると、彩菜たちは簡素な寝具に身を委ね、それぞれが疲れた体を休めようとした。薄暗い空間に灯る小さな明かりが、わずかな安心感をもたらしてくれる。彩菜は、静かな夜の空気に包まれながら、心の中でおばぁの言葉を思い返していた。「怨霊やゾンビに取り憑かれた者がいる」という現実に直面し、再び心が重く沈むのを感じた。しかし、こうして自分を理解し支えてくれる人がいることで、少しだけ心が安らぐのもまた事実だった。


「これからどんなことが待ち受けているのだろう…」彩菜はそう呟きながら、眠りにつこうと目を閉じた。


その夜、彩菜は微かに遠くから不気味な唸り声のような音を聞いた気がした。しかし、疲れが体に溜まっていたためか、そのまま意識は遠のき、深い眠りに落ちていった。


一方で、我如古と光は夜警を交代で行うことにしていた。彩菜たちが安心して眠れるように、二人は交代で見張りにつき、外の気配に敏感に耳を傾けていた。我如古は辺りに何も異常がないことを確かめるたびに、心の中で安堵するが、その一方で内に潜む不安も膨らみ続けていた。


こうして彩菜たちは一夜を共に過ごすことになり、明日への準備を整えながら、また新たな戦いに備えることとなった。

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