第2章 第10話:明けゆく夜、覚めない恐怖
祭りの1日目の夜が、ようやく明けた。空が淡く色づき始めた頃、彩菜はおばぁの傍らで一睡もせず、夜通し考え込んでいた。昨夜、ミナの強大な力を目の当たりにし、自分との圧倒的な差を感じずにはいられなかった。普段は感じない焦りと不安が、心の奥からじわりと広がってきた。
「どうして…あんな風に力を使えるのか…私は、まだ全然…」
自問を繰り返しても答えは見つからず、もやもやした思いが心に絡みつく。自分もいつかあのように力を扱えるようになるのか、それとも一生届かないのか…不安と焦燥が入り混じり、東の空が明るくなり始める頃には、彩菜はすっかり気力を奪われていた。
「きっと、何かが足りないんだ」
自分に不足している何かがわからず、頭を抱えたくなる思いだった。しかし、答えは出ず、むなしい気持ちが残るばかりだった。
その時、隣で静かに息をしていたおばぁが、ゆっくりと目を開けた。彩菜が気づいて顔を向けると、おばぁは穏やかな微笑みを浮かべた。
「…彩菜、夜通し付きっきりでいてくれたんだね。ありがとう」
おばぁの優しい声に、彩菜は心が少しだけほぐれた。しかし、安堵の息をつきながらも、昨夜の出来事を話さずにはいられなかった。ミナの登場、恭子の奇妙な行動、祭り会場でのゾンビ騒動…すべてを報告する彩菜の言葉に、おばぁは深く頷きながら静かに耳を傾けていた。
「大変だったね…彩菜。よく頑張ってくれた」
おばぁの優しい言葉が、彩菜の心に染み渡った。その言葉だけで、自分の奮闘が無駄ではなかったと感じられ、肩の力が少し抜けた。しばらくおばぁとともに休んだ後、彼女の体調が戻った頃、彩菜は決心して祭り会場へと足を運ぶことにした。昨夜の混乱を確認し、少しでも手がかりを探したいと思ったからだ。
だが、祭り会場に着いた瞬間、二人は予想を超える光景に言葉を失った。朝の陽光が会場を照らしているというのに、その景色はひどく荒れていた。何者かが暴れまわったかのように、破れた布や倒れた屋台、地面に踏み荒らされた足跡、無数の擦り傷が残されている。彩菜は息を呑み、周囲を見回した。
「一体…ここで何が…?」
人々の歓声が響いていた賑やかな夜の面影は一切残っておらず、そこにあるのは祭りの痕跡だけだった。彩菜は不安と恐怖が心に押し寄せるのを感じ、無意識におばぁの手を握りしめた。
「おーい!誰か、いますか?」彩菜とおばぁは周囲に声を張り上げ、返事を待った。しかし、会場は静まり返っており、人の気配はどこにもない。見回しても、昨夜の賑わいを思わせるものは一つも残っていなかった。
おばぁが不安げに会場の奥を見つめる中、彩菜は改めて胸がざわつくのを感じた。自分の目の前にある異常な光景が、現実とは思えなかったからだ。
「もしかして…あの怨霊のせいで、ここにいた人たちが…」
彩菜は恐怖に顔を強張らせた。怨霊がこの会場を襲った可能性が頭をよぎり、無意識に胸の護符に手を当てる。ミナが警告していたように、怨霊に直接立ち向かうのは危険すぎる。だが、目の前の光景がその結果だとすれば、どうすれば良かったのか、どうすれば止められるのかを考えずにはいられなかった。
「彩菜、深呼吸して…焦らないで。今、何ができるかを考えよう」
おばぁの声に、彩菜は少し冷静さを取り戻した。彼女はおばぁと共に会場の隅々を歩き回り、異変の痕跡を探し始めた。しばらくして、二人は地面に残る一筋の血痕を見つけた。それはわずかに途切れ途切れになっており、人の手が付けたものに見えた。
「この血痕…誰かがここで何かに襲われたのかも」
彩菜は強張る自分を励まし、声を出して確かめるようにした。このままでは何も始まらないと理解しつつ、恐怖に抗って手がかりを追いかけることを決意した。
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