第2章 第9話:新たな決意、彩菜の覚悟

彩菜は、一度深呼吸をして自分を落ち着かせ、目の前にいるミナに向かって自分も名乗ることにした。


「私は…彩菜。巫女としての力はまだ未熟ですけど、おばぁが私を守ってくれました。あなたは、何者ですか?」


ミナは、彩菜の問いかけに一瞬考え込むような表情を浮かべたが、すぐに静かに口を開いた。


「私は除霊師だ。さっきの男を殺した怨霊の女を追っている。あれは、ただの怨霊ではない。力が強く、深い怨念に染まっている。見かけたとしても、決して退治しようとは思わないことだ。逃げることだけを考えろ。」


その言葉に、彩菜は息を飲んだ。ミナの真剣な表情は、まるでそれが彩菜の命に関わる重要なことだと告げているようだった。彩菜は自分の力不足を改めて感じ、何も言えずに頷いた。


その後、彩菜たちはおばぁを支えながら、人気のない場所へと移動することにした。おばぁはまだ疲労が残っており、安静にする必要があった。ミナが先導し、彩菜はおばぁを抱えてその後ろを歩いた。


道中、何度かゾンビと遭遇することがあったが、ミナは素早く動いてそのたびにゾンビを祓ってくれた。彼女が放つ力は強力で、一瞬でゾンビが消え去る様子に彩菜は圧倒された。


「同じくらいの年齢に見えるのに…なんでこんなに力の差があるんだろう…」


彩菜は自分の力の未熟さを強く感じ、心の中に自己嫌悪が渦巻いた。何もできなかった自分、そしてミナのように人を守る力がない自分が情けなく思えた。自分もいつかは、ミナのように強くなれるのだろうか。彩菜は強い憧れと共に、ふと意を決してミナに尋ねることを決めた。


「…どうしたら、あなたみたいに力を使えるようになれますか?」


その問いを口にしようとした瞬間、目の前に安静にできそうな場所が見えてきた。ミナはそこで立ち止まり、彩菜に振り返った。


「ここならおばぁを休ませられるだろう。しっかり休ませてやるんだ。」


ミナはそれだけを言うと、何も言わずに身を翻してその場を立ち去ろうとした。彩菜は驚きとともに、すぐにミナを引き止めようとしたが、彼女はすでに去っていく後ろ姿を見つめるしかなかった。


「待って、まだ…」


だが、ミナは振り返ることなくそのまま姿を消した。彩菜はミナに力のことを聞けなかったことに悔しさを感じたが、その代わりに自分の中で何かが変わり始めたのを感じた。


「次こそ…今度こそ、私が守らなければ…」


彩菜は護符を軽く握りしめ、その温かさを感じながら、おばぁを守るという強い決意を胸に刻んだ。この先、どんなに困難なことが待ち受けていようとも、今度こそ立ち向かう覚悟を持とうと、彼女の心は固く決まった。


だが、その時ふと、ミナの後ろ姿が見えなくなった瞬間に、彩菜の中で新たな疑問が湧き上がった。彼女の力の源は何なのか、そして怨霊を追っているというが、その背後には何か深い事情があるように思えてならなかった。ミナが怨霊をどのようにして探し出し、倒しているのか、彩菜には想像もつかなかったが、その戦いは想像を絶するほど危険であることだけは感じ取れた。


「怨霊って…そんなに簡単に倒せるものじゃないんだ…」


彩菜は自分の護符を握りしめた。これまで護符を使って何度か小さな危機を回避してきたが、今の自分では到底、怨霊に立ち向かえるだけの力がないことを痛感した。自分の未熟さが今、ますます浮き彫りになり、彩菜の胸の中で強く自覚されていった。


おばぁの息遣いが微かに聞こえる。彼女のためにも、もっと強くならなければならない――彩菜の心は、その思いでいっぱいだった。自分の力がまだ未完成であっても、次に危機が訪れたときには、必ずおばぁを守るために立ち上がると、彩菜は心の中で決意を新たにした。

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