第2章 第3話:緊急事態、鳴り響く警報

浦添のショッピングセンターは、普段通りの活気に包まれていた。清掃責任者である優斗も、いつも通りの業務をこなしていたが、突如としてその日常は打ち破られた。


「ウィーン、ウィーン、ウィーン!」


耳をつんざくような避難警報が館内に鳴り響いた。優斗は、その警報に驚き、周囲を見渡した。他の清掃員たちも、動揺して立ち止まっていた。


「なんだ、この音は?火災か?」優斗は心の中で呟き、落ち着こうと深呼吸をした。だが、状況はすぐに明らかにならなかった。


「優斗さん、どうしましょう?この警報…何かおかしくないですか?」近くにいた同僚が不安そうに声をかけた。


優斗も何か不吉なものを感じていたが、今はそれを言葉にする余裕がなかった。「とりあえず落ち着こう。何が起きているのか確認しないと。」


その時、内線が鳴った。優斗は急いで受話器を取る。受話器越しから聞こえてきたのは、我如古の緊迫した声だった。


「優斗、聞こえるか?今、ショッピングセンターの内外で暴動が発生している。人が人に噛み付いているんだ。すぐに手伝いに来てくれ、これは緊急事態だ!」


「暴動…?人が噛み付いている…?」優斗は言葉を失った。それがただの喧嘩やトラブルではなく、何か異常事態であることが直感的に理解できた。


「わかりました!すぐに向かいます!」優斗は我如古にそう返答し、受話器を置いた。次の瞬間、心臓が激しく鼓動するのを感じた。


「どうする…?まずは清掃員を避難させなければ…」優斗は自分に言い聞かせ、即座に動き出した。


まずは島袋に向かう。彼はいつものように冷静で落ち着いているように見えたが、その表情には不安が隠せなかった。


「島袋!今、我如古さんから内線があった。外で暴動が起きていて、人が人に噛み付いているらしい。従業員を控室に避難させてくれ。緊急事態だ。」


島袋は驚いた表情を浮かべたが、すぐに優斗の指示に従った。「わかった、すぐに従業員をまとめる。」


次に、優斗は上原の元へと急いだ。上原はすでに警報を聞いて動き始めていたが、優斗が駆け寄ると、目を見開いて問いかけた。「優斗、何が起きているんだ?」


「上原さん、内線で暴動が起きているって。人が人に噛み付いているんだ。すぐに照屋さんに連絡して、現場に来てもらうように伝えてくれ。」


上原は一瞬信じられない表情を見せたが、すぐに状況の深刻さを悟った。「わかった、すぐに照屋に連絡する。」


優斗は一通りの指示を終えると、深呼吸をして自分を落ち着かせた。だが、心臓の鼓動はますます早くなり、全身に冷や汗が流れていた。「これは…まさかゾンビのことか…?」あの悪夢のような出来事が現実となっているのではないかという恐怖が、彼の脳裏をよぎった。


「そんなことはない…きっと、ただの暴動だ…」そう自分に言い聞かせながらも、体は勝手に震え始めていた。何かが確実におかしい。それを察知しながらも、優斗は現場に向かわなければならない。


「現場で確認しなければ…」そう決心した優斗は、再度深呼吸をし、足早にエスカレーターへ向かった。


ショッピングセンター内は、異常な空気が漂っていた。避難警報の音が響く中、客たちは徐々に混乱し始め、何が起きているのか理解できずにいた。避難誘導のアナウンスが流れるも、騒ぎは止む気配を見せない。


エスカレーターを降りた優斗は、我如古たちがいる場所に近づくにつれ、遠くから怒号や叫び声が聞こえてきた。さらに進むと、視界の先に異様な光景が広がっていた。


人々が何かに怯え、叫びながら逃げ惑っている。そして、彼の目の前には、人間が人間に噛み付いている姿が――まるで狂犬のように、正気を失ったかのように襲いかかっている。


「これは…ゾンビか…?」


優斗はその場で立ちすくんだ。あの日見たゾンビの光景がフラッシュバックのように蘇り、全身が硬直した。数日前に目撃した悪夢が、現実となって目の前に繰り広げられていたのだ。


「動かないと…」優斗は自分にそう言い聞かせたが、足は震え、簡単には前に進むことができなかった。それでも、我如古からの要請に応えなければならない。優斗はなんとか気を取り直し、一歩ずつゆっくりと現場に向かって進み始めた。

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