第2章 第1話:迫る祭りと揺れる決意
宜野湾祭りの初日。彩菜は、朝からその準備に追われる街のざわめきを感じていた。いつもは静かな通りに、祭りを楽しもうとする人々が徐々に集まり始め、あちこちで出店の準備が進んでいた。大きな提灯が通りに並び、色鮮やかな布が風に揺れる光景が広がっている。普段なら、この賑やかな雰囲気に心が踊るはずだったが、彩菜の胸には重い不安がのしかかっていた。
昨日、夏芽音おばぁからゾンビや怨霊を祓う術を教えられた彩菜。しかし、まだ自分の力を信じきれていない。祭りが始まると同時に、ゾンビの脅威が近づいてくる予感が強くなる。だが、彩菜はその危機をどのように防げるのか、未だにわからなかった。
「本当に、私にできるのかな…」
彩菜は自問しながら、護符を手に取った。昨日、夏芽音おばぁから渡されたこの護符は、怨霊を封じるためのものだ。しかし、それをどう使うべきか、具体的なイメージがつかない。
ふと、彼女の耳に祭りの準備をしている人々の笑い声が届いた。その無邪気な笑い声が、彩菜の胸にさらなる責任感を呼び起こす。この人々を守らなければならない――そんな思いが心の奥底から湧き上がってきた。
「やるしかない…」
自分にそう言い聞かせながら、彩菜は大きく息を吸い込んで、街の喧騒の中に歩を進めた。今日は祭りの初日だが、彼女にとってはただの祭りではなく、ゾンビとの戦いがいつ始まるかわからない日だった。
その頃、優斗は浦添のショッピングセンターで忙しく働いていた。宜野湾祭りの影響で、ショッピングセンターも普段以上に混雑している。朝からの人の波が引く気配はなく、どのフロアも客でいっぱいだった。優斗は何度も館内を巡回し、異常がないか確認するが、頭の中では昨夜の不安が消えない。
「あれは本当にただの夢だったのか…?」
優斗は、自分が見たゾンビの姿が現実なのか、幻なのかをまだ確かめきれずにいた。今は仕事に集中しなければならないと分かっていても、ふとした瞬間にその映像が脳裏に蘇る。まるで、何かが迫ってきているかのような感覚だった。
「今日は大丈夫だよな…」と、優斗は一人つぶやきながら、次の巡回に向かう。
祭り会場では、準備が整い、いよいよ人々が集まり始めた。大きな太鼓の音が響き、沖縄の伝統舞踊が祭りの始まりを告げる。彩菜はその光景を少し離れた場所から見つめていた。彼女は今もまだ、自分の役割に完全に自信を持てずにいる。
「祭りが始まれば、何かが起こる…」彩菜は、そう感じていた。夜が近づくにつれ、その感覚はますます強くなっていく。
突然、遠くから低い唸り声のような音が聞こえてきた。彩菜は息を飲み、周囲を見渡す。まだ何も異常はない。しかし、その音が怨霊やゾンビの気配だということに、彼女は本能的に気づいていた。
「何かが近づいてる…」
彩菜は護符を手に握りしめ、再び大きく息を吸った。自分の力を信じなければならない。まだ完全には覚醒していないが、それでも、やるしかないと心に決めた。
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