第11話揺れる信念と怨念の真実

彩菜は、宜野湾の自宅に戻る途中、来週始まる祭りの準備に目を留めた。賑やかな街の様子に懐かしさを感じたが、その一方で、彩菜の心には重い不安がのしかかっていた。おばぁとの会話が何度も頭の中を巡る。自分が本当に「巫女」として役割を果たせるのか、自信を持てなかった。


再び北谷のおばぁの家を訪ねた彩菜は、彼女と静かに向き合って座った。部屋の中は静かで、空気には重々しいものが漂っていた。窓の外では、どこか遠くで鳥がかすかに鳴いている。


「怨念って、本当にそんなに強い力を持ってるの?私はまだ信じられないよ…」彩菜は眉をひそめ、疑念が晴れないまま言葉を紡いだ。


おばぁはゆっくりと頷きながら、「そうじゃ、彩菜。この土地に根付く怨念は強い。特に、戦場になった場所では、その力は計り知れない」と答えた。彩菜は納得できず、まだ迷いを抱いていた。


「でも…私がそんな力をどうにかできるとは思えない。巫女なんて、ただの役割でしょ?私には無理だよ」彩菜は自信を失った様子で言った。


おばぁは、少し考え込みながらも優しく見つめ、「今はまだ、あんたも自分の力に気づいておらんだけじゃ。焦らんでいい。覚醒する時が来るじゃろう」と静かに告げた。


おばぁが微かに口元に手をやったのを、彩菜は気づかなかった。


「でも、本当にその時が来るの?もし何か起こって、私は何もできなかったら…」彩菜は不安に満ちた声で言ったが、おばぁはただ穏やかに微笑んでいた。


「その時はその時じゃよ。すべては巡り合いじゃ、彩菜。今は、あんたがその時に備えればそれでええ。未来は一つの道筋じゃないからのう」とおばぁは淡々と答えた。


おばぁが座っている机の上には、古ぼけたお守りがひとつ置かれていた。それは、彩菜が幼い頃に見た記憶が微かにあるものだったが、今はただ古いものとしか感じられなかった。おばぁがふとそれに手を伸ばし、静かに触れる動作をしているのを、彩菜は何気なく見ていたが、何の意味もないように思えた。


その後、彩菜は帰り道に祭りの準備が進む街を眺めながら、さらに不安を抱えたまま歩いていた。ゾンビが現実に存在すること、そしてそれがただの怪物ではなく、怨念や魂の力が関わっていることに、彼女は次第に気づき始めていた。


「祭りが近づいているね。人々が集まる場所は、怨念を集めやすい。そこにゾンビが出る危険がある」とおばぁは静かに語りかけた。


「でも、どうしてあんなゾンビが?普通の死体じゃないの?」彩菜はまだ完全には信じきれない様子で尋ねた。


おばぁは深く息をつき、座り直した。「このゾンビは、ただの死体が動いているわけじゃない。死霊の魂がゾンビになっているんじゃ。特に戦時中や無念が強く残っている場所では、その力が増すんじゃ。」


「つまり…戦争や苦しみがこのゾンビたちを生んでいるってこと?」彩菜は信じられない気持ちで、その事実を飲み込もうとした。


「そうじゃ。宜野湾もかつて戦場だった場所じゃ。戦争で命を奪われた人々の怨念が、今でも土地に残っておる。そして、死霊がゾンビとしてこの世に戻ってきている。祭りの日、人が集まる場所ではその力が特に強まる。だから、注意が必要なんじゃ。」


彩菜は身震いした。祭りが、今回に限っては危険な舞台になる可能性を感じた。そして、彼女自身の力もまだ完全に覚醒していない。何が起こるか、予想もつかないのだ。


「おばぁ、私はどうすればいいの?まだ自分の力を十分に使える気がしない。」彩菜は不安げに尋ねた。


おばぁは彩菜をじっと見つめ、ゆっくりと答えた。「あんたの力はまだ完全じゃない。だが、覚醒はすでに始まっている。私が助けられる限り助けるが、最終的にはあんた自身がこの力と向き合い、使いこなさなければならない。それがあんたの宿命じゃ。」


彩菜は重い責任を感じつつも、目の前の現実から逃げることはできないことを悟った。怨念が巻き起こすゾンビの脅威が、いよいよ彼女の前に立ちはだかろうとしていた。

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