第10話拭いきれない不安
優斗は、千春と一緒にショッピングセンターの外周を巡回していた。いつも通りの業務だが、心の中には昨夜の出来事が重くのしかかっていた。あのゾンビが現実に起こったことだという恐怖と、まさか夢だったのではないかという疑念が交錯していた。
「優斗さん、さっきの話だけどさ…昨日、寝不足になるくらいゾンビ映画を観てたって、本当?どんなの観たの?」千春が興味深げに話しかけてきた。
優斗は一瞬、どう返事をすべきか迷った。あの出来事を映画の話として片付けてしまいたかったが、詳細に話すと、昨夜の恐怖が再び蘇りそうで怖かった。
「え、ああ…いや、あんまり覚えてないんだよ。途中で寝落ちしちゃったし…多分つまらないやつだったと思う」優斗は曖昧な笑顔を浮かべ、軽く肩をすくめて話を流そうとした。
「ふぅん、そうなんだぁ。まあ、ゾンビ映画って大体似たような展開だもんね。私も昔、結構観てたんだけど、怖くて夜眠れなくなっちゃってさ」千春は笑いながら話を続け、優斗もそれに適当に相槌を打つ。しかし、千春の話に集中できず、彼は周囲に目を向けながら不安を抱いていた。
その時、遠くから小走りでこちらに向かってくる姿が目に入った。織田美香だった。彼女の目はどこか焦ったようで、千春と優斗が並んで歩いているのを見て、一瞬何かを考え込んだ様子だった。
「優斗さん、ちょっといいですか?」美香は少し息を切らしながら近づいてきた。
「ああ、美香さん、どうしたの?」優斗は彼女に微笑みかけたが、特に何かを気にする様子もなく、ただ仕事の話だろうと考えていた。
千春も微笑んで「美香ちゃん、お疲れ様」と軽く挨拶するが、美香はそれをあまり気に留めず、優斗に視線を集中させている。明らかに、二人が仲良く巡回している姿に何か感じているようだが、優斗はそのことにはまるで気づいていない。
「いや、あの…今ちょっと気になることがあって…外周の点検、もう少し手伝ってもらえませんか?」美香は表向きは仕事の話を持ちかけてきたが、その裏には千春と優斗の距離感が気になって仕方がないという気持ちが隠れていた。
「うん、いいよ。千春さん、ちょっと先に行っててくれる?」優斗はあくまで何も気にしていない様子で、美香の提案を受け入れた。
千春は特に気にする様子もなく「了解、私は先に行ってるね」と軽く手を振って、その場を離れた。しかし、その後ろ姿を見送る美香の表情はどこか不安げで、千春の存在が彼女にとって気になるのは明らかだった。
「何か気になることがあったのか?」優斗は美香に尋ねるが、その言葉には純粋な仕事の心配しか込められておらず、彼女の心情にはまったく気づいていなかった。
「ううん、そんなに大したことじゃないんですけど…」美香は少し戸惑いながらも言葉を濁す。
優斗はそんな彼女の様子にもあまり深く考えず「じゃあ、とりあえず一緒に見回るか」と軽く肩をすくめて提案した。
美香は頷きながらも、心の中では優斗と千春の関係が気になって仕方がない。だが、優斗はまったくその気配に気づくこともなく、あくまで仕事モードで巡回を続けていった。
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