第4話目覚める力
宜野湾にある古い民家で、一人暮らしをしている彩菜は、朝の静けさの中で目を覚ました。天井を見つめる彼女の心には、いつも通りの不安と葛藤があった。「天女の巫女」としての運命を押し付けられたことが、彼女の生活には常に影を落としていた。巫女としての役割に向き合うことが怖かった。だからこそ、普通の女性としての生活を必死に守り続けていた。
朝の光が差し込む部屋で、彩菜は身支度を整え、町へ出ることにした。何か変わったことが起こるわけではないが、外に出ると心が少し軽くなる気がするのだ。宜野湾の静かな町並みを歩くと、いつも通りの平和な光景が広がっていた。けれど、最近の沖縄には不穏な噂が広がっていた。
「ゾンビが現れる…」彩菜はその話を何度か耳にしていたが、信じようとは思っていなかった。巫女としての力を持つとはいえ、あまりにも現実離れした話だったし、彼女はむしろそういった世界から距離を置きたいと考えていた。
その日、彩菜はふと、ユタの夏芽音が営む店の前を通りかかった。店の扉は少し開いていて、内側から夏芽音がじっとこちらを見つめているのがわかった。彼女の鋭い眼差しは、まるで彩菜を呼び寄せるかのようだった。
「…入ろうかどうか」迷いながらも、彩菜はその扉を通り抜けた。店内に漂う独特の香りが、彼女の不安をかき立てた。夏芽音は静かに座り、彩菜を見つめていた。
「彩菜、お前も感じているだろう。沖縄に異変が起こっている。この地で、死者たちが動き出しているのだ」と夏芽音が話し始める。その言葉には、どこか不気味な響きがあった。
「死者が…動いている?」彩菜はその言葉に驚きを隠せなかった。
「そうだ。お前が巫女としての役割から逃れ続けることはできない。目を覚ませ、彩菜。お前の力が必要なんだ」
「私は…私はただ普通に生きたいだけなんです!」彩菜は必死に反論する。彼女の中で巫女としての運命に立ち向かう決意は、まだ固まっていなかった。これまで何度もそう言って自分を守ってきたのだから。
夏芽音はゆっくりと立ち上がり、彩菜に近づいてきた。その視線が、彼女の心の中を貫いているようだった。「逃げられない、彩菜。お前の運命は決まっている。さあ、覚悟を決めるんだ」
突然、彩菜の体が重くなり、頭がクラクラし始めた。夏芽音の言葉が頭の中でこだまし、まるでどこか遠くに引きずり込まれるような感覚に襲われた。全身が動かなくなり、視界が暗くなっていく。
「運命…から逃れられない…?」
その言葉を最後に、彩菜は意識を失った。
彩菜はハッと目を覚ました。顔に冷や汗が滲んでいた。周囲を見回すと、そこは彼女の自宅の布団の中。朝の光が差し込む部屋に、静けさが戻っていた。
「…夢?」彩菜は息を整えながら、震える手で顔を拭った。今のはただの夢だったのだと気づくと、体から少しだけ力が抜けた。しかし、夢の中の夏芽音の言葉は、あまりにもリアルだった。
「逃れられない…運命…」
彼女はふと窓の外を見つめた。夢だとしても、彩菜の中で何かが変わり始めているのを感じていた。それは、これまで必死に避けてきた「巫女」としての運命。そして、沖縄全土を覆い始めている異常な現象。夢の中で言われたことが現実なのだとしたら、自分には何かしらの役割があるのではないか――そんな考えが、心の奥で小さく芽を出し始めていた。
まだ完全には受け入れられない。運命から逃れることができないのだとしたら、自分は何をすべきなのか、その答えを探し始める時が、もう間もなく訪れようとしていた。
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