第2話変わる日常
第2話「迫り来る恐怖」
優斗は、昨夜ゾンビに遭遇したことが現実なのか、それとも自分が何かの間違いをしたのかを確かめたくてたまらなかった。だが、そんな気持ちを抱えたまま、今日も仕事が始まった。浦添西海岸ショッピングセンターのフロアを掃除しながら、何度も昨夜の出来事を思い出しては首を振る。
「おはよう、優斗さん!」明るい声が聞こえ、振り返ると、最近入社した織田美香が笑顔で立っていた。元気いっぱいの彼女は、職場でも人気があり、優斗も彼女の明るさに少しだけ救われている部分があった。
「おはよう、織田さん。調子はどう?」
「ばっちりです! でも優斗さん、今日はちょっと顔色悪いですね。何かあったんですか?」彼女は心配そうに顔を覗き込む。
「いや、別に…ただ、少し寝不足で」優斗は微笑んで誤魔化すが、内心では昨夜のことが頭から離れなかった。
そんな時、休憩室で同僚の上原隆と一緒になる。彼は普段は冗談交じりに話しかけてくるが、今日は違っていた。口を閉ざし、何かを考え込んでいる様子だった。
「上原さん、どうかしましたか?」優斗が尋ねると、上原はハッと我に返り、ぽつりと呟いた。
「優斗、お前…最近、変なこと聞かなかったか?」
「変なこと?」
「北谷の方で、ゾンビが出たって噂だ。最初は誰も本気にしてなかったが、最近になって目撃情報が増えてきてるらしい」
優斗は、心臓が一瞬凍りつくのを感じた。まさか自分が昨夜見たものが、それと同じなのか?
「噂には聞きましたけど、まさかゾンビなんて…冗談でしょう?」優斗はわざと軽い調子で答えるが、上原の顔は真剣だった。
「俺もそう思ってた。でも、最近どうもおかしいんだよ。仕事が終わって夜道を歩いてると、遠くで人影が揺れてるのを何度か見たんだ。それも、一度や二度じゃない。あれは、ただの酔っ払いじゃない…」
優斗は沈黙した。昨夜の光景が脳裏にフラッシュバックする。腐りかけた肌、不規則な動き、そしてその不気味な存在感。あれが「ゾンビ」だったとしか言いようがない。
「上原さん、それって本当にゾンビなんですか?」優斗は小声で聞き返す。
「さぁな。でも、気をつけろ。何かが、確実に変わってきてる」
その日の業務中も、優斗はずっと心ここにあらずだった。頭の中では昨夜の出来事と上原の言葉が交錯し、次第に自分がどうすべきか分からなくなっていた。ショッピングセンターの周囲では、これまでにない不穏な空気が漂っているのを感じた。
その夜、優斗は再び自宅へと原付で向かっていた。冷たい風が肌を刺す中、昨夜と同じルートを選んでいたが、どこか異様な静けさが周囲に満ちていた。
途中、優斗はふと違和感を覚え、原付を止める。辺りを見回すが、人影は見当たらない。だが、確かに何かが「動いている」音が聞こえた。低く、うめくような声も、かすかに耳に届く。
「まさか…?」
優斗は鼓動が速くなるのを感じ、原付のハンドルを握り直した。その時、目の前の薄暗い路地からゆっくりと姿を現したのは――昨日と同じ、腐りかけたゾンビだった。
そのゾンビは、明らかに人間ではなかった。動きはぎこちなく、片足を引きずりながらこちらに向かってくる。その顔は、崩れた皮膚と白濁した目で覆われ、まるで地獄から蘇ったかのような姿だった。
優斗は恐怖に駆られ、咄嗟にアクセルを全開にしてその場を逃げ出した。背後でゾンビのうめき声が遠ざかるのを感じながら、必死で家まで戻る。自宅に着くと、優斗は息を荒げながらドアを閉め、背を壁に預けた。
「やっぱり、あれは…ゾンビだ」
恐怖と現実の狭間で、優斗はようやく自分の置かれた状況を理解し始めた。これはただの噂や都市伝説ではない。何か異常なことが、現実に起こっているのだ。そして、自分だけがその恐怖を目の当たりにしている。
しかし、優斗はまだこの事実を誰かに打ち明ける勇気が出なかった。自分が狂ったと思われるのが怖かったのだ。それでも、このままではいけない。何か、行動を起こさなければ――だが、それが何なのかは、まだわからなかった。
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