第19話 呪われた剣
聖剣をしっかり埋め終えた俺は一仕事したように汗を拭う。
『お疲れ様です、こちらをどうぞ』
「あぁ、ありがと……」
タオルでも差し出されたのかとそのまま手を伸ばすとなぜかずっしり重たいものを握ることになる。
握ったものをよく見るとそこにあったのは先ほど埋めたばかりの聖剣だった。
『ふふふっ、この程度で私から逃げようなんて百万年早いですよ、勇者様』
「ちっがーう!! 勇者はあっち。だからお前の持ち主もあっちだ!」
俺は跳ね返されて目を回している勇者ラグーンを指差す。
ただ聖剣は呆れた口調で言ってくる。
『えーっ、嫌ですよ。あんなばっちい人……。それに勇者様が二人もいるはずないじゃないですかぁ』
確かにラグーンは口からは謎の物体が漏れているのと、体は弾き飛ばされたことで泥まみれになっている。
とはいえ、その半分はこの聖剣がしでかしたことで俺は無関係である。
「お前は勇者の装備だろ?」
『だからこうして勇者様のお側にいるんじゃないですか!?』
「俺は勇者じゃない!」
『それは私の決めることですから』
「勝手に決めるな! もう一度埋めるぞ!?」
『へへーん、何度埋められても出てきますよ。私と勇者様は一心同体なのですからね』
なんだかムカつく話し方をする剣だ。
そもそも剣が喋っているだけで鬱陶しいのだが。
「ねぇ、なに剣を見ながら独り言を言ってるの? なんだか怖いよ?」
マーシャに引き気味に言われる。
そこで聖剣の言葉が俺にしか聞こえていないことに気づく。
「いや、大したことじゃ無い。ちょっと
『だ、誰がゴミですかぁぁぁ!?』
聖剣がうるさく叫んでいるが、誰にも聞こえないと言うことがわかったのでそのまま放置することにする。
「あっ、やっぱりリック様も本気で戦おうとしていたのですね」
ミリアは嬉しそうに聖剣と俺の顔を見比べていた。
そういえばミリアは聖女。
まだまだレベルは低いが、それでも呪いを解く魔法は使えたはず。
「すまない、この呪われた装備を外したいから頼んでもいいか?」
『だ、誰が呪いの装備ですか!?』
「そんなことをしたらもったいないですよ。せっかく神々しい姿になられているのですから」
顔を赤らめながら言ってくるミリア。
どう見ても分相応な剣を持っているモブである。
「マーシャはどう思う?」
「んーっ、どうだろ?」
ジッと俺のことを見てくるマーシャ。
「ボクにはわからないや」
「……だよな」
「えーっ、わからないですか? このなんとも言えない光の魔力を……」
『よくわかっていますね。私の素晴らしさを。もっと褒めても良いのですよ』
「そもそも俺は魔法が使えないから気のせいだな」
埋めてもダメなら、と思いっきり放り投げる。
最弱モブであるはずが想像以上に剣が遠くまで飛んでいき少し驚くが、これでいったん問題は……。
『ただいま戻ってきました』
「帰れ!」
『だから帰ってきたんですよ』
秒で手元に戻ってきてしまう。
――そうだ、これをここにもってきた魔王なら……。
期待のこもった視線を魔王に向ける。
「やはり持てたか」
「当然でしょうね」
俺が聖剣を持つという結果に満足して頷いていた。
いや、まだだ。
まだ聖剣を俺から引き離す方法がある。
「オーガ!!」
「はっ、何でしょうか?」
「この剣を思いっきり引っぱってくれ」
「引っぱるのですか?」
不思議そうにしながらも指示通りに動いてくれる。
しかし、なぜか全く離れてくれない。
『ふふふっーん。私を動かせるのは勇者様だけなのでーす』
どうやら予想以上に厄介な
というわけで俺は迷うこと無く剣をそのまま勇者ラグーンの上に落とす。
「ぐはっ……」
刺さらないようにはしたとはいえ、意識を失っていたラグーンに重量のある剣が乗るとかれはその重さで悲鳴を上げていた。
「これでいいか」
「うむ、確かに其奴が勇者ならばそれで呪いは解けるだろう」
魔王のお墨付きをもらったのでもう安全だった。
あとはもう一人の方……。
『残念でした。私はこんなことで離れたりしないから』
一応魔王軍の中でサヴァンに匹敵するほどに疑り深い性格をしているエリザベートが、あんな見え見えな罠に掛かるのは信じられなかった。
もしかすると罠に掛かったフリをして別の罠に掛けようとしているのでは無いだろうか?
いつの間にかまた手元に戻ってきている聖剣で突いてみる。
チクチク……。
「って痛いですよ!?」
どうやら本当に意識はあって気絶したフリをしていただけのようだった。
エリザベートは飛び起きると俺たちに鋭い視線を向けてくる。
「どうしてここを襲おうとしたのか、説明してくれますよね?」
サヴァンがエリザベートを睨み付ける。
「わ、私はただ勇者様のあとに着いてきただけで……。いつか背後から襲うつもりで……」
どうやら裏切りキャラとして仲間に加わっていたようだ。
――稀にそういうゲームもあるよな。
懐かしく思いながら俺は薪を聖剣で切り始める。
中々切れ味がいいから便利かもしれないな。
『ってさり気なく斧代わりにしないでくださいよぉ!?』
うるさいのが玉に瑕だけど。
「勇者? 一体誰のことを言ってるんだ?」
魔王が呆れながら言う。
当然エリザベートは転がって気を失っている勇者を見る。
その際に奥で薪割りをしている俺の姿を見て口をぽっかり開けていた。
「えっ? せいけ……? ど、どうして!?」
「どうしても何もこれが答えじゃ無いか?」
「お、おかしいですよ。確かに王都で私はこの男が勇者だと……。はっ!? ま、まさか……」
「偽情報でも掴まされたのでしょう」
「くっ……、こ、ここで負けるわけにはいかないです」
エリザベートが俺目掛けて突っ込んでくる。
もちろんそんな姿を見ていなかった俺はちょうど全部薪を割り終えたのでそれを家へ運ぼうとする。
あまりにもタイミング良く動いたものだからエリザベートは反応しきれずにその攻撃を躱してしまう。
さらにエリザベートは止まりきれずにそのまま畑の柵を越えて……。
「た、助けてください……」
見事に落とし穴に落ちていた。
もちろん襲ってきた相手をそのまま見逃す理由もないので、俺はスコップを持ち、聖剣を投げ入れたあとそのまま砂で埋めていくのだった。
◇◇◇◇◇◇
エリザベートも牛鬼と同じように完全に埋まりきる前に転移の魔道具でどこかへ消えてしまう。
ただそれでも聖剣だけは埋まっていったのだが……。
『私があの程度で勇者様を諦めると思いましたかぁ? 残念でしたぁ』
妙に腹が立つ口調で話してくる聖剣に苛立ちを隠しきれなかった。
「いい加減離れてくれ。俺に装備されたところで、魔王を倒しに行くつもりはないぞ?」
そもそもせっかく共に暮らしているのだから、今の平和を崩すつもりはない。
すると聖剣は刃の部分を傾げていた。
『魔王……ですか? そんな小物の相手なんてしないですよぉ。何せ私は大物一点釣りの剣ですよぉ?』
いや、そんなはなし知らないぞ?
「それじゃあ一体何を倒させようとしてるんだ? それとも何度も埋まるのが趣味なのか?」
『私を突然埋め始めるのはあなたが初めてですよぉ』
「もう一度埋めるぞ?」
『何度でも出てきますから』
「それよりも何をさせるつもりなんだ」
『それは……』
いい加減話が進まないので机を指でトントンと叩き始める。
すると、聖剣はようやく目的を教えてくれる。
『私の目的は彼の悪逆非道な邪神龍オズワルドを倒すことです』
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