第18話 勇者の侵攻
魔王の案を採用した俺たち。
すぐさま田舎村の住人の安全を確保するために動いていた。
村へ入ること無く勇者を聖剣へと誘導する。
そのために道の色んな場所に看板を立てていく。
「……ってこんなので本当にいいの?」
マーシャが不思議そうに言ってくる。
俺たちがやっていることといえば看板を立てているだけ。
“聖剣がこちらにあります→”
だけ書かれている看板なので普通に見たら罠にしか見えない。
「……なぜかこんなのでたくさん引っかかったからな」
マーシャの顔を見ながら言う。
するとマーシャは顔を真っ赤にしながら言う。
「あ、あんな所に落とし穴があるなんて普通、思わないよね!?」
「柵で囲って、看板まで立ててるのにか?」
「し、知らなかったら一緒のことだよ。それに……」
マーシャはモゾモゾと恥ずかしそうに言う。
「柵って目の前にあったら跳び越えたくなるよ……」
――お前は子供か!?
と言いたくなるが、むしろ見た目から子供のようにしか見えないのである意味年相応なのだろう。
「それにあの罠に掛かったのはマーシャだけじゃ無いからな……」
ミリアも掛かったし、四天王牛鬼も掛かっている。
間接的にサヴァンも落ちているし、聖剣もなぜか落ちている。
もはや罠があるって書いておけば自動的に引っかかってくれるのでは、と錯覚してしまうほどだった。
「でもこれは罠でもないし……」
「一応村へ行く道にはオーガ達に落とし穴を作って貰ってるけど、それほど時間もないからな」
「リック様、こちらの準備はできてますよ!」
「よし、毒入り料理もできたな」
「ど、毒……!? それはちょっとやりすぎなんじゃない?」
「まぁ、見てくれたらよくわかる」
そういうと俺はマーシャを連れて看板が差している先へと向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
看板の先にはまたあからさまに罠だと言っているテーブルが置かれていた。
その上には複数の料理が置かれている。
その中央には鍋ごと捨てたはずの……。
「って、なんでボクの料理が置かれてるのよ!?」
「魔王すら昏倒させるものだからな? 一応命の危険はないし」
「で、でも……」
「大丈夫ですよ。他の料理はちゃんと食べられますから」
フォローに見せかけてトドメを差しに来るミリア。
「ぼ、ボクの料理は食べられないものなんだ……」
「そんなことはわかってただろ?」
「わ、わかってないよ!?」
「とにかくあとは看板で誘導するだけだな」
「も、もっとわかりにくい罠も作っておくよ。心配だし……」
マーシャが不安そうに懐からいくつかの石を取り出して呪文を唱えていた。
設置型の魔法でも準備しているのだろう。
「良いのですか、リック様」
「まぁ、罠は幾つあってもいいからな」
元々どうやって勇者ラグーンが来るのかはわからない。
こちらとしての対処はあくまでも数を増やすだけだ。
◇◆◇◆◇◆
勇者ラグーンはどうにも苛立ちが抑えきれなかった。
もはや体に何一つ傷はないはずなのに歩くだけで無性に腹が立ってくる。
魔物が現れようものなら持てる最大の技で吹き飛ばして苛立ちを解消していた。
「ちっ、まだ着かないのか!?」
「もう少しでございますよ、勇者様」
「そこにも四天王がいるんだよな!?」
「えぇ、あと勇者様の標的の魔王も」
「魔王がいるのか!?」
魔王ならばこの苛立ちも少しは解消できるかもしれない。
ラグーンはエリザの歩く速度もお構いなしに大足で田舎村へと目指すのだった。
するとなぜか目立つ場所に大きな看板が掲げられていた。
“聖剣はこちらにあります→”
「なるほど、こっちに聖剣があるのか」
「って勇者様!? どうみても罠ですよ!?」
エリザは大慌てでラグーンを止めようとする。
しかし、ラグーンは当たり前のことを言ってくる。
「罠なら罠で良いじゃないか。正面から突破すればいいだけだ」
当たり前のように言ってくるラグーン。
矢印の先に進んでいくその姿を見てエリザはため息を吐く。
「はぁ……、誘惑は盲目的になるのがダメね」
仕方なく勇者のあとに着いていく。
もちろんいざという時は勇者だけを犠牲にして自分は逃げられるように。
しばらく歩くとこれまた罠としか言いようがないテーブルが置かれていた。
しかもそこにはどう見ても罠である料理が置かれていたのだ。
「なるほどな……」
「勇者様!? さすがに食べないですよね?」
「確かにこの上手そうな料理は明らかに罠だな。そんなことはこの俺でもわかる。でも……」
勇者が指差したのは中央に置かれた大鍋だった。
「このどこからどうみても毒が入ってる謎の物体。逆にこれは安全ということじゃないか?」
誰がどう見ても手に取らないであろう謎物体。
この中でどれかを食べないといけないのなら、このいかにも怪しい物体はむしろセーフ。
罠を堂々と“罠です”なんて書く相手はいないのだから。
「えっと、勇者様? 別に無理をして食べなくても……」
「大丈夫だ、エリザも食ってみろよ」
そういうとラグーンはエリザの口に無理やり謎物体を突っ込んでくる。
さらに自分も喜んで謎物体を頬張っていく。
「ちょうど腹が減っていたところだ。こんなところに飯があって助かっ……ぐはっ」
――や、やっぱり罠だったのね。何を食べても毒が入ってるっていう……。
薄れる意識の中、エリザは単細胞すぎる勇者を恨むのだった。
◇◆◇◆◇◆
「……えっと、まさか本当に食べるなんて思わなかったよ」
「さすがにこれは俺も驚きだな。ミリアの上手そうな料理を放置して、
「毒じゃないよ!?」
「えっと、この方々はどうするのですか?」
「一応逃がさないように縛り上げるぞ。マーシャは落ち込んでないで、オーガを呼んできてくれ」
「わ、わかったよ」
マーシャが急いで呼びに行ってくれている間に俺たちは二人をロープでグルグル巻きにするのだった。
オーガはすぐにやってきてくれる。
そもそも俺の家からここまでは結構近い場所にあったから同然ではあった。
「リック様、お呼びですか?」
「あぁ、こいつらを運んでくれないか?」
「かしこまりました」
オーガが両肩に勇者とエリザベートを抱えるとそのままみんなで家の方へと戻っていく。
すると家の外ではすでに魔王が待っていた。
「そいつが勇者か?」
「エリザベートが一緒であることを見ますと、そのようにございます」
――よし、魔王達にも公認を貰ったぞ。
これでようやくあの邪魔な聖剣をどっかにやることができるようだ。
どこか哀愁を漂わせている刺さった聖剣。
俺に引っこ抜いて欲しいと言わんばかりに視線を向ける度に光り輝いているのがまたうっとうしい。
そんな剣が遂に無くなるのだ。
「それじゃあ勇者をあの剣目掛けて投げてくれるか?」
「えっ? 投げるのですか? 別に触れるだけなら近づいても……」
「いや、そいつにはしっかりと聖剣を手にしてもらわないといけないからな。投げてくれ」
「わ、わかりました」
オーガは思いっきり振りかぶり、勇者を聖剣目掛けて投げつけていた。
勇者が触れれば聖剣は自然と抜ける。
聖剣を手にすることが勇者である証、とまで言われていた。
当然ながら原作主人公であるこの勇者なら間違いなく装備できる。
このときの俺はそう確信をしていた。
しかし……。
「ぐはっ……」
聖剣に衝突した勇者はそのまま聖剣に弾き返される。
もちろん聖剣を装備できた様子も、動いた様子も無い。
それどころか勇者は俺たちの方へ向かって跳ね返ってくる。
「あ、危な……」
俺は慌てて勇者を避ける。
しかし、予想だにしない攻撃を慌てて回避したからか、足が絡まり、そのまま転けそうになる。
なんとか堪えているとちょうど俺の体を支えるように長細いものが置かれていた。
「た、助か……」
『勇者様!! 遂に触って下さったのですね!? この日を幾年お待ちしていたことか……』
俺の体を支えてくれたのは聖剣だった。
そのうるさい声を聞いた瞬間に俺は聖剣を落とし穴に落とし、速攻で穴に埋めていくのだった――。
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