第17話 襲撃の勇者
毒物の処理を終えるとようやく平和な日々が戻ってくる。
今のこの状況を平和と言っていいのかは迷うところではあるのだが。
四天王オーガが畑を耕し、聖女ミリアが部家の掃除をする。
四天王サヴァンが村に来る商人と交渉をして、必要なものを購入してくれる。
更に魔王ルシフェルがみんなの邪魔をし、マーシャは部屋に籠もっていた。
なぜか俺がみんなをまとめていくという明らかにおかしい采配だったが、そのことを疑問に思っているのは俺以外いない様子だった。
そんな時にヨハンからとある情報を聞きつける。
「知ってるか?」
「あぁ、知ってる」
「まだ何も言ってねぇよ!?」
毎度おなじみのやりとりをするとヨハンはため息交じりに言ってくる。
「どうやら勇者様が魔王軍四天王の一人を倒したらしい」
「へ、へぇ……、そうなんだな」
――倒された四天王というと牛鬼のことだよな?
とはいえ牛鬼はオーガが相打ちしながら倒していた。
勇者が倒したわけじゃないのだけど、情報が錯綜しているのだろうか?
それともここにいない四天王エリザベートが倒されたのだろうか?
いや、それだとヨハンが二人の話してくるはずだった。
倒されたのが一人ということはまず牛鬼のことだろう。
「それは朗報だな」
「……いや、そうとも言えないらしい」
ヨハンが声を落として周りを見た上で言ってくる。
「実は……四天王に支配されていた村の住人が滅ぼされたらしい」
「……四天王に滅ぼされたのか?」
「いや、それが勇者自身によって滅ぼされたらしい」
――原作にそんな話、あっただろうか?
首を傾げながらヨハンを見る。
「どうやらその村の住人が四天王に操られていたから、ということらしい」
「えっ!?」
――四天王に操られていたってことは牛鬼の話じゃないのか?
他人を魅了して操るのはエリザベートの得意としているところだった。
でも倒されているのは牛鬼のはず。
ヨハンの話がチグハグすぎて訳がわからなくなっていく。
「詳しく教えてもらっても良いか?」
「あくまで俺も聞いた話だからな……」
ヨハンが教えてくれたのは、勇者が四天王が支配していた村を開放すると突然住民が襲いかかってきて、やむを得ず対処をしたということだった。
やはり聞いたこともないイベントだった。
そもそも勇者が村人を対処……?
つまりは勇者が村を滅ぼした、ということになってしまう。
それだとまるで勇者が魔王みたいじゃないか。
なんで主人公がそんなことになっているんだ?
首を傾げるものの原作と違う展開になってる原因の一端が俺にあることは一目瞭然であった。
「……もしかして勇者は他の村も?」
「いや、まだ次の村には辿り着いてはいないらしい。ただ……」
順番としてはこの村とは正反対の位置にあるエリザベートの支配地へと向かうはず。
いや、今まで牛鬼の領地ですら苦戦をしていた勇者なのだ。
おそらくは誰か仲間を見つけたのだろうが、それでも自身を鍛えてからじゃないと次の四天王は厳しいと思っているのだろう。
――まぁ、しっかり原作をクリアしようとしてくれるのならいいか。
そんな俺の考えをあっさり否定するようにヨハンが口を開く。
「どうにもこの村へ向かっているらしいぞ」
「ど、どうして!?」
「いや、それはわからないが……」
一瞬疑問を口にするが、よくよく考えるとここには魔王軍四天王の二人がいるわけだし、更には魔王もいる。
明らかに戦力過剰ではあるが、ここまで敵が固まってるのだから勇者が狙うのもよくわかる。
――いや待て。今のこの状況だと魔王たちを率いているのが俺ということにならないか?
魔王はなぜか俺を勧誘しようとしてるし、オーガは俺の部下になっている。
本来ならこのポジションは黒幕である邪神龍が担っていたはずなのに。
ただ勇者に襲われそうになったらさすがに聖女ミリアや賢者マーシャが止めてくれるはず。
とはいえ懸念事項もある。
なぜか勇者が村を滅ぼしたという点だ。
原作ではなかった行動をとっているのが不思議でならない。
もしかするとミリアたちを仲間にできなかったことで、よからぬ誰かが仲間になってしまったかもしれない。
――全くこんなことで頭を悩ませるのはモブである俺の仕事じゃないはずなんだけどな。
とはいえここが狙われているというのなら事前に対策を取る必要があるだろう。
そう思った俺はみんなを俺の家のリビングに集めることにした。
◇◇◇◇◇◇
「せ、せまいぞ……」
さすがに全員を集めるには俺の家は狭すぎたようだった。
全員がぎゅうぎゅう詰めになりながらもなんとか部屋の中に入る。
「一体何の用だ」
「実はみんなに相談したいことがある」
「分かっておりますリック様。実はリック様が勇……もがっ」
突然何を言い出すんだと慌ててミリアの口を塞ぐ。
幸いなことに魔王たちにはミリアが何を言おうとしたのか伝わっていなかったようだ。
「相談とは?」
サヴァンが不思議そうに聞いてくる。
「実はこの村に勇者が攻めてくるんだ」
「えっ!? リック様、この村を攻めるのですか!?」
「だから俺じゃない!! 勇者の話だ」
「……どうしてそんなことになってるのよ?」
マーシャはどうやら勇者ラグーンの話だと理解してくれたようだった。
不思議そうに首をかしげる。
「それなら返り討ちにすればいいだけじゃないのか?」
「それがそうもいかない。ヨハンの話だと勇者は魔王軍の支配していた村を滅ぼしたらしい」
「……えっ!?」
マーシャが思わず声を漏らす。
「な、なんで勇者がそんなことをしているのよ」
「それはわからない。でもこの田舎村も同じ目に遭うかもしれない」
「そ、そんなことは……」
「確かにありえない話ではなさそうですね」
俺の話ですぐ同意をしてくれたのはサヴァンだった。
「今の勇者はエリザベートと行動を共にしているはずですから」
「……ど、どういうことだ!?」
俺ですら知らない話をサヴァンがしてくる。
「いえ、先日四天王が集まったときにエリザベートがそんな話をしていた気がします。オーガも聞いていますよね?」
「そうなのか!?」
俺が視線を向けるとオーガは頷いて見せる
「はい。でもあのときの勇者は恐るるに足りぬしか持っていませんでしたので」
「そういうことか。どうにも勇者らしからの行動をしてるなと思ったんだ」
つまり勇者がここに来るのは、エリザベートの策略で、サヴァン達同様に魔王の下へと戻ろうとして、ということだろう。
それなら何も怯えなくても良かったんじゃないだろうか?
「しかしエリザベートですか……。少々厄介ですね」
「どういうことだ? 四天王だろ?」
「それはそうですが彼女はかなりの野心家です。ここに我々全員が揃っていますからまとめて滅ぼそうと企んでいるのでしょう」
「つまりどのみち対処をするしかないんだな?」
「……はい」
それならやっぱりみんなに相談するしかないだろうな。
「それでどうしたらいいと思う?」
「リック様がチュドーン!! って倒してしまえばいいですね」
「それは却下だ。単に勇者が操られてるだけかもしれないからな」
「はっ!? そういえばそうでしたね」
「つまり勇者が勇者と自覚すればいいのだな?」
今まで黙って聞いていた魔王がようやく口を開く。
何かいい考えがあるのかもしれない。
「方法があるのか?」
「簡単なことだ。聖剣を持たせたらいいだろう。あれには憎らしいことに状態異常を払う効果があるだろう?」
魔王が“お前なら知っているだろう”と言わんばかりに聞いてくる。
確かに知ってるけど、それを口に出すのはなんとなく憚られたので言わない。
でも、それは良い考えかも知れない。
勇者の意識だけ奪って、今もなお玄関前に刺さっている聖剣にぶつける。
それで
「よし、魔王の案を採用する。みな、準備をしてくれ」
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