第20話 勇者の処遇
――邪神龍……か。既に倒してしまってるな……。
つまりこの聖剣の目的は達成しているわけだ。
それならこのまま追い出しても全く問題ないな。
「よし……」
『わかってくださいましたか?』
「捨てるか」
『ど、どうしてわかってくれないのですか!?』
「うるさいだけで捨てられない呪われた装備のことなんてわかるわけないだろ?」
『また呪われた装備って……。これでも神聖龍様に作られた神聖な剣なんですよ?』
刃の部分を張って偉さをアピールしてくる。
――すごくウザい……。でも冷静に考えるとトンデモ能力を持っているんだよな、聖剣。
元々が勇者の最終武器であるためにその能力は破格。
なんでも勇者と共に成長していく剣らしく、神聖龍の血を受け継いでいることを理解し、覚醒した勇者が聖剣を手に取ったことで破格の性能を……。
そこで俺の動きが固まる。
――まさか……。まさかな……。
冷や汗がだらだらと流れ出す。
確かに聖剣は最高の攻撃力を持つ勇者専用装備。
道具としてしようすれば剣より神聖龍の吐息を敵に浴びせられるという特殊能力すらあった。
しかしそれらの能力が全て
最弱モブの俺が自身の能力によって成長する聖剣を手にした結果……。
俺は聖剣を手に取る。
『勇者様! 遂に私と共に悪を滅ぼす旅に出てくださるのですね』
聖剣は恍惚の声を出すが全て無視をする。
そもそも聖剣が固く手重たいのは勇者以外は装備ができないため。
手元に戻ってくるのは捨てることができないアイテムのため。
なら武器としての性能は……。
俺は勇者の上に聖剣を落としていたときのことを考えていた。
確かに直接刃の先を向けていたわけじゃないので刺さっていないのはおかしいことでは無かった。
しかし、勇者の装備に切り傷一つ付けられなかったのだ。
でも斧よりも薪が斬りやすいことも確認している。
ただ、田舎村の古びた斧の攻撃力なんてそれこそ最低ランク。
それと競い合う程度の力しか持っていないとなると……。
大きな岩目掛けて思いっきり聖剣を振るう。
すると……。
ガキィィィィィン!!
鈍い音が響き渡り、聖剣を持っていた手が弾かれると同時に聖剣がすっぽ抜ける。
岩にはまるで傷がついておらず、逆に……。
『か、欠け……。わ、私、欠けちゃってますよ!? な、直してください!?』
聖剣の方が刃こぼれをおこす結果になっていた。
「欠けたならもう捨てるしか無いな。残念だな」
『そ、そんなこと言わないでください。直してくださいよぉ』
大慌てする聖剣があまりにもうるさいので、聖女に頼むだけ頼む。
「ミリア、この剣に回復魔法って使えるか?」
「使うことはできますけど、聖剣に使うのですか?」
「聖剣ではなくて、ただの聖剣レプリカ。つまり駄剣だ」
「は、はぁ……」
『だ、誰が駄剣ですか!? 私は紛う事なき聖剣ですよぉ』
「ものに回復魔法を使ったことはないのですけど、やってみますね」
ミリアが回復魔法を使うと聖剣の刃こぼれは元に戻っていた。
元々聖属性の魔法から作られていたために回復魔法との相性がよかったようだ。
『元に戻りましたぁ』
「……ちっ」
『あっ、いま舌打ちをしましたね』
「ただの岩で刃こぼれする方が悪い」
『そんなことありません。きっとあれは邪神龍がその力の一部を封印した、という禍々しい石なんですよ』
どちらかといえばその邪神龍の墓標に近い岩なんだけどな。
当然ながら力を封印したという事実も無いために俺の力に準じた能力……、つまり武器として最低ランクの力しか持っていないことがわかった。
これなら聖剣と言うことをごまかせそうだ。
あとは……。
俺は未だに意識を失ったままの勇者ラグーンを見る。
「ど、毒じゃ無いよ!?」
『私もばっちい人に触りたくないだけです』
原因を作った面々が即否定をしていた。
「さすがにこのまま放置するわけにもいかないか……」
本音は埋めてしまいたいが、さすがに人族の勇者を倒したとあっては国から軍隊を派遣されてもおかしくない。
でも、村を全滅させるような危険な相手をそのまま放置する、というわけにもいかない。
一応エリザベートが洗脳していた、ということなので彼女がこの場からいなくなったことで洗脳は解けているはず。
村を滅ぼしたことを聞いてから解放するのでもいいかもしれない。
ついでに聖剣を渡して……。
ただのモブの仕事では無いのだけど、今の厄介ごとが無くなると考えると俄然やる気も出てくる。
『埋めちゃいましょう』
聖剣が本来の自分の主に対してとんでもないことを言い出しているが、そこは無視をすることにする。
しっかりと手足はロープで拘束して吊してある。
「さすがに吊すのはやり過ぎじゃ無いかな?」
マーシャは眉をひそめていたが、相手があの勇者であることを考えるとこれでも足りないほどである。
「えっと、回復魔法を使いましょうか?」
「いや、水を掛ければ起きるだろ?」
「ならボクの出番だね」
マーシャはこぶし大の水玉を作り出すとそれを勇者の顔にぶつける。
するとびっくりしたように勇者が起きる。
「な、なんだ!? 何が起こった!?」
目が覚めた勇者は周りを見た上で自分の状況を確認して驚きの表情を浮かべる。
「一体これはどういうことだ!? 離せ!!」
「どういう、ってお前がこの村を攻めようとしたから罠を張っただけだぞ?」
「俺が村を!? 俺はただ四天王の支配から村を救おうと……痛っ」
勇者が苦痛に顔をゆがめる。
どうやら記憶に混濁が見られるようだった。
本当にエリザベートに洗脳されていたようだ。
「どうやら洗脳はとけてそうだな」
「そうみたいだね。それならこの拘束、解いても良いんじゃない?」
「それもそうだな。オーガ、頼めるか?」
「かしこまりました」
オーガは一礼をした後、勇者の拘束を解いていった。
さすがに四天王の一人が言うことを聞いているのを見て勇者は驚いていた。
「えっと、ここはまさか四天王の支配する……」
「いえ、ここはリック様が支配する土地です」
「いや、どっちも違うだろ?」
勇者とオーガの二人の意見を否定する。
「ところでどこまで覚えているんだ?」
未だに俺たちのことを警戒している勇者だったが、こちらとしても詳しい状況を知っておきたい。
この際騒いでいる勇者のことは放置することにした。
「どこってエリザと酒を飲んで……。ま、まさか俺が酔い潰れたのを狙って……」
「はぁ……、つまりは全く覚えていないのか」
「これは困りましたね。どうしましょうか?」
「な、なんの話だ!?」
「もちろん貴方が滅ぼしてしまった村の話ですよ」
「なっ!? 俺が滅ぼしただと!? そんなことするはずがないだろ!?」
勇者が慌てて声を荒げる。
ただその瞬間に頭を押さえていた。
「くっ、この記憶は……」
「どうやらお前は四天王のエリザベートに操られていたらしいぞ」
「そうだな。それは我らが保証しよう」
「お、お前は魔王!?」
勇者は後ろに飛び避けると自身の剣を掴もうとする。
しかし、そんな危険なものをいつまでも持たせているはずも無く、勇者の手は空を切っていた。
「戦うために武器が必要なら貸すぞ」
『って私を貸そうとしないで下さい!?』
聖剣の声を振り切って、勇者に投げつけるが当然ながら勇者は聖剣を持つことができなかった。
『ふっふーん、勇者様以外に私を持つことができないんですよ』
「こいつは勇者だぞ?」
『違いますよ。だって真の勇者様がいるのですよ? だったら他の人はもう勇者じゃないですよね?』
自信たっぷりに言ってくる聖剣。
ただ俺からしたらとんでもない内容だった。
――他の勇者はいない? よし、このことは黙ってよう。
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