第15話 鬼族のオーガ
なぜか四天王の二人、牛鬼とオーガを相打ちに追い込んだとして俺の評価が急上昇してしまった。
それはもう仕方ないとして、直接戦闘をしたわけでもないので、経験値は一切入っていないので、レベルは1のままである。
せめて少しでもレベルが上がって能力が上昇したら、色々とやれることもあるのに……。
ゲーム知識を生かそうとしても基本は魔物との戦いは避けられない。
最弱モブのままでは俺が持っている知識はまるでいかせないのだ。
「まさか魔王軍の四天王すらも手を下す必要がないとは予想外だったぞ」
「まさか相手の嫌がるものを送って怒りを煽るなんて私も考えつかなかったですね」
「えっと……、そ、そうだな……」
――まさかよかれと思って渡したものが嫌いなものだったなんて……。
とはいえ、この胸の内はしまっておく方が良さそうだった。
「それにしても牛鬼がここまでやるのは予想外でしたね。オーガの軍勢を壊滅させるなんて……」
興味深そうにオーガを見ているサヴァン。
すると、突然オーガがゆっくりとした動きで起き上がってくる。
「いてててっ。油断してしまった」
「オーガ、生きていたのですね」
「あぁ、なんとかな……」
まだ立ち上がるのはキツいのか、オーガはその場で座り込んでいた。
「それにしてもオークの奴、どうしてあんなに怒ってたんだ?」 「それはこちらのお方が――」
「な、なんでもないぞ。それよりもあの贈り物はそんなにダメだったのか?」
「ダメ……ではなかったのだけどな。俺としたら」
オーガは言いずらそうな表情を見せる。
「お前は豆が好物のことを周りには隠していたもんな」
隠し事をわざわざバラしてしまう魔王。
――やっぱり鬼と言えば豆だよな。
納得する俺に対して、魔王を除く他の三人は驚いていた。
「えっ?」
「そうなのですか?」
「あっ、いや、俺は……」
「わははっ、我がこっそりと豆を渡してやってたのが懐かしいな」
オーガが必死に誤魔化そうとしているのにそれを堂々とバラしていく魔王。
もしここでオーガが本調子なら豪快に肉を食べて誤解を解いているのだが、そんな余裕もないようだった。
「それにしてもいくら牛鬼がバカ……、それなりに強いとしてもオーガの敵じゃないですよね? なぜそこまで苦戦したのですか?」
「あっ、いや、それは……」
「例えば……、良い贈り物をもらったから本気を出せなかった、とかか?」
「そんなバカなことがあるはず……」
サヴァンは否定しようとしていたのだが、オーガは小さく頷いていた。
「それならあの豆はこちらのお方からの贈り物と伝えた方が良かったですね」
下手な争いが起きないように俺のことは隠していたのにサヴァンがそのことをバラしてしまう。
「そ、そんな……、ど、どうして……」
驚きの表情を浮かべるオーガ。
みんなに隠していた好物をろくに知らないモブに言い当てられたのだから仕方ないことかもしれない。
もちろん、言い当てた覚えもないが。
「このお方が魔王様が勧誘されているお方です。それほどの方なのですから我々のことなんて見たらわかるのでしょう」
「……っ!?」
――いやいや、見てもいなかったよな? それにそれほど驚くことでもないだろ?
「魔王様にお話ししたいことがあります」
オーガは魔王に頭を下げながら言う。
「なんだ?」
「軍団を失った俺に四天王たる資格はありません。今一度自分を鍛え直したいと思います」
「お前の場合、個の実力だけで十分に四天王たりうると思うが……、仕方あるまい。我以上の主人を見つけたのだな」
「はっ、申し訳ありません」
そういうとオーガは俺の方に視線を向けてくる。
「と言うことですので、これからもどうぞよろしくお願いします」
オーガが突然俺の前に来て頭を下げてくる。
――ちょっと待て。なんでここで俺に振られるんだ!?
なぜかルシフェルもサヴァンもうなづいている。
「……すまないが全く話についていけないのだが?」
「そ、そうだね。なんで魔王軍四天王がリックに仕えようとしてるのよ!?」
「何かおかしいですか?」
オーガは不思議そうに言う。
そもそもレベル差を考えて欲しい。
オーガはサヴァンの前に戦う魔王軍四天王の三番手。
まともに戦うなら勇者パーティのレベルが40後半は欲しいほどの相手だ。
一方の俺はレベル1。
むしろ付き従うのなら俺が下に付くのが自然である。
そもそも四天王を配下って俺の身が危なくないか?
「いやいや、おかしいよ!? 魔族は敵なのに仲間になるなんて……」
確かに“ドラゴンの秘宝”では敵モンスターが仲間になることはない。
でも他のゲームだと魔物を倒したら起き上がって仲間になるものもある。
ただその対象が四天王だっただけ。
――いやいや、ボスが仲間になるのはおかしいだろ!?
俺もマーシャと同意見だったのだが、なぜかミリアはずっとニコニコと笑みを浮かべていた。
「リック様のご威光の前には魔族ですら平伏してしまうのですね」
「いやいや俺がしたことといえば豆を……」
「そうだった。もらった豆を隠したままだった。すぐに取ってくるから待っててくれ」
それだけ言うと話が決まる前にオーガはこの場から去ってしまった。
――いや、話はまだ終わってない……。
声をかけるより前にオーガがいなくなって俺は呆然とそちらを眺めていた。
◇◇◇◇◇◇
すでに床で寝ているような現状で俺たちの家に寝る場所はなく、かと言って自分から抜けた魔王の家に居候する気にもなれないようで、いつの間にかオーガは新しい場所に住んでいるようだった。
竪穴式住居……という名の落とし穴に。
初めて家に来た時に落とし穴に嵌まっていたが、そこから目につけて改良に改良を重ねて、すっかり住居に改造してしまったのだ。
既に何部屋も作り上げており、俺の家より豪華なのは愛嬌だった。
俺もいつかもっと大きい家を……と思っているのだが表札の聖剣が邪魔すぎて広げにくかった。
もうここまで色んな面々が集まっているのだから諦めて聖剣を持ってしまってもいいのだが、なんとなく最後の一線のような気がして未だにそれだけは持たなかった。
――それにしても中の広さとは違って地上にあるのは物置小屋のような建物なんだよな。
ぼんやりオーガの建物を眺めていると麦わら帽子にシャツといった格好をして、農具を持ったオーガがちょうど出てくる。
「リック様。おはようございます」
「あ、あぁ、おはよう。今日も畑仕事か?」
「えぇ、本当にリック様の家臣になって良かったです」
なぜか俺の家臣になったオーガは生き生きとした姿で、畑の世話をしてくれていた。
戦力の無駄遣いにも思えるが、本人が畑を見た瞬間に進んでやりたがったのだから頼んでみたのだ。
その結果いつの間にか畑の面積が二倍以上広がっている。
大半が豆なのはどうなのだろう? と思うが。
あと、畑の周囲に作っていた罠は全て取り払っていた。
聖剣以外は。
元々害獣用の罠だったが、今は襲いかかってきてもオーガがどうにかしてくれるのだ。
そもそもメインキャラ専用の罠になりつつあったので、もうこれ以上はかかって欲しくない、って意味もあった。
それにここまで使えるオーガを今まで戦わせることだけしかしなかったなんて信じられない。
――いや、あまり似合わないもんな。
思わず苦笑をしながら一通り畑の様子を見て家へと戻っていく。
するとそこには泡を吹いて倒れている魔王ルシフェルとそれを見下ろすエプロン姿のマーシャがいたのだった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます