第14話 四天王達との戦い
そうそうたるメンバーがいる中で俺が戦うことになってしまった。
――なんで!? まさか真なる勇者の称号を過信しすぎてる!?
既にこの問題はどうにかなったという空気がマーシャ達から流れているのだが、俺からしたら死活問題だった。
何か罠に掛けるか?
相手の一人が牛鬼というのがまた厄介である。
俺の家の周りに仕掛けてある罠が全てバレているのだ。
何かもので釣るしかないか。
牛の好きそうなものは……草だし鬼だと……豆か?
なんとなく豆はぶつけてる印象しかないのだが、とりあえず用意しておくか。
大量に用意しておけば退いてくれたりとかしないだろうか?
そもそもどうしてモブの俺がこんなことを真剣に悩んでいるのだろうか?
おかしくないだろうか?
そもそも俺が何もしなければ魔王が相手をしてくれるんじゃないだろうか?
自分の部下だもんな。
――よし、それなら俺がやることは俺が襲われないように贈り物をして、あとのことは魔王に押しつけるだけだな。
あとはどうやってこの贈り物を届けるか。
ただ四天王なら同じ四天王に頼むのが一番やりやすいのではないだろうか?
そう思った俺は視線をサヴァンに向ける。
「どうかされましたか?」
「ここに来る連中に渡して欲しいものがある」
「ほう……、それは?」
俺がサヴァンに渡すものを伝えると彼は楽しそうに微笑んでいた。
「なるほど。それは中々楽しいことになりそうですね。私に任せて置いてください」
「すまないが頼む」
そうと決まると俺は早速それぞれの好物を準備し始めるのだった。
◇◆◇◆◇◆
「勇者め……。殺してやる……」
牛鬼は目が血走りながら軍を率いて田舎村を目指していた。
「牛鬼様、落ち着いてください。頭に血を上らせると敵の思うつぼになりますよ」
「そんなことはわかっている!! だからこそ罠を警戒してるんだろ!」
ぜんぜんわかってない、と心で嘆く部下だったが言っても聞かないどころか、むしろ下手なことを言うと自分も殺されかねないとわかっているためにこれ以上強く言えなかったのだ。
「くふふっ、勇者と言えどこれだけの数を相手にすることはできないだろう」
既に勝った自分の姿を想像しているのだろう。
牛鬼はにやり微笑んでいる。
そんなときに別の部下が慌ててやってくる。
「牛鬼様、お知らせしたいことがございます」
「なんだ? この大事なときに……」
「それが我々を追うように四天王オーガ様一行が迫ってきております」
「……オーガが!? どういうことだ?」
「それが……、我々を狙っているように思います」
「……っ!? もしかして俺様が勇者を狙っている事に気づいて?」
「あり得そうですね。牛鬼様の功績を妬んでの行動なら」
「ちっ……。オーガを相手にするにはこの戦力だとキツいか……」
「どうしますか? ここは一度退いて態勢を……」
「いや、勇者を殺すためにはここで退くという選択肢はない。それにオーガはそれほど軍勢を連れていない可能性がある。勝算は十分ある」
「……かしこまりました」
渋々頷く部下。
すると再び別の部下がやってくる。
「牛鬼様、よろしいでしょうか?」
「――今度は何だ?」
「牛鬼様に贈り物が届いております」
「ほう……、一体誰からだ?」
「それが誰からかは言わずに渡されたものでして……」
「……見せてみろ」
牛鬼は訝しむ表情を見せる。
何か怪しい予感がしていたが、その感覚が正しかったことをすぐ知ることになる。
「こちらにございます」
部下が見せてきたのは大量の草だった。
それも薬草とかではなくただのその辺で取ってきたような雑草。
どうみても馬鹿にしているようにしか思えないその贈り物を見た牛鬼は強く唇を噛みしめていた。
「……消せ!!」」
「はっ! 勇者を、ですね」
「違う。すぐにオーガを消すぞ!! 俺様を馬鹿にしやがって! あいつめ、絶対に許さない!!」
なぜかリックからの贈り物をオーガからのものと勘違いする牛鬼。
それもそのはずで牛鬼からしたら勇者がわざわざ自分に贈り物をしてくる姿が想像できないのだ。
そうなると自分を馬鹿にした贈り物をしてきそうな相手はオーガのみ。
常々馬鹿にした態度が気にくわなかったがついに堪忍袋の緒が切れた。
勇者を攻めようとしていたことをすっかり忘れ、牛鬼一行はそのままオーガへと突っ込んでいくこととなるのだった。
◇◆◇◆◇◆
オーガのほうも部下をまとめ、田舎村へと向かっていた。
正確には田舎村に向かっている牛鬼を狙っていたのだが。
「ちっ、思ったよりも追いつかないな」
オーガも急いで出発していたのだが、軍を急遽整えたりとかで少し出遅れていた。
サヴァンより到着が遅れているのもそれが原因だった。
それと空を飛んで行ったサヴァンと普通に歩いて向かっているオーガの差もあるが。
「牛鬼様は怒りでかなり急いでそうですもんね」
「……このまま追いつかずに手柄を立てられても困る。急ぐぞ!」
「あっ、ちょっとお待ちください。こちらオーガ様に贈り物だそうです」
「贈り物だと!? 一体誰からだ?」
「それが……わからないです」
「とにかく持ってこい!」
オーガの前に運ばれてくる大量の豆。
一体何のためにこんなものを?
「オーガ様の好物だと渡されました」
「俺は豆でも食っておけって事か!?」
部下の手前怒っている風を装うが、実際には本当に好物だった。
心の中では喜んでいたのだが、豆好きの鬼なんて姿を部下には見せられないのだ。
豪快に肉を食べる姿を見せてこそ鬼族の長らしい姿だと思われているのだから。
「……こほんっ。おそらくこれを送ってきたのはまお……」
魔王様からの褒美だろう、と思ったのだが、部下達の考えはそうではなかったようだ。
「オーガ様にこんなものを送りつけてくる相手。きっと牛鬼様に違いありませんよ」
「許せないですね、オーガ様」
「えっ!? う、うむ、許せないな」
「わかりました。全力で牛鬼様を追いかけます!!」
「い、いや、実は褒美の可能性も……」
「そんなわけないですよ。こんな豆、オーガ様が食べるはずない事なんてすぐにわかるじゃないですか!?」
「あっ……」
部下が思いっきり豆を蹴り飛ばす。
もったいないことに豆が転がって散らばる。
「わかった。すぐに牛鬼を攻めるぞ!!」
部下達が先に追いかけていったのを見たあと、オーガは一人豆を全て集めて隠したあと、少し遅れて牛鬼を追いかけるのだった。
◇◆◇◆◇◆
田舎村から少し離れた場所で俺は腕を組んで魔王軍四天王がくるのを待っていた。
いや、正確には待たされていた。
俺の後ろには魔王ルシフェルとサヴァン、更にミリアとマーシャが控えていた。
「ほ、本当に戦うのか?」
「確かにそなただと戦いにすらならないのはよくわかるぞ」
わかってるならやめてくれ。
俺は心で泣いていた。
「当然ですよ。リック様の魔法なら一撃ですから」
「ボクも見てみたいな、その魔法」
「……それにしても遅いですね。私の計算だともう来ている時間なのですが」
サヴァンが不思議そうに首を傾げる。
「サヴァン、見てこい」
「はっ」
サヴァンは空を飛び周囲を確認して驚きの表情を浮かべていた。
「ま、魔王様……」
「どうした? 何かあったのか!?」
「牛鬼、オーガ、共に全滅しております」
「……はぁ!?」
ルシフェルは意味がわからなさそうに口をぽっかり開けていた。
しかしすぐに俺の方を見てくる。
「なるほど。すでに倒したあとだから“本当に戦うのか”だったか」
「……えっ?」
「こんな速攻倒せるなら言ってくれ。わざわざここまで来る必要もなかったじゃないか?」
「さすがはリック様です」
「ま、まて。俺は本当に何もしていない……」
「なるほど。あの贈り物はそういう……。自分の手も汚す必要がなかったわけですね」
なぜかみんなから絶賛されて一人困惑してしまう俺だった。
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