第5章 明かされる衝撃の事実、この世界の真実

「クレスタ…絶対に許さない…」


クレスタへの復讐のため、マリアンヌは立ち上がる。もう、マリアンヌひとりしかいないのだ。


イカダを作らなくても、自分だけならこの1本だけの丸太に乗っても沈まないだろう。


 丸太を海へと押し出し、マリアンヌは海へと漕ぎだした。





 クレスタの冤罪のせいで、自分たちはこんな島に流され、この島の獣たちに、友が食われた。家族から引き離され、島にたったひとり残されたマリアンヌ。


(…ん?家族…?)


 おだやかな海。冷たい潮風。


(…なにか、おかしい)


 静かな環境の中にいるマリアンヌは、頭が冷静になり、大きな違和感に気が付いた。


(お父様とお母様のことが、わからない…?どうして…おかしい…)


 マリアンヌの家族のことが思い出せない。家族はいるはずなのだが、なぜか思い出せない。家族の容姿、名前、すべてが思い出せないのだ。


(おかしいといえば、裁判もせずに私たちをこんな島に放り込むなんて…)


普通、罪人を裁くときは慎重な裁判をする。もしかしたら、その罪人は無罪かもしれない――事実、マリアンヌは無罪なのにこの島に放り出された。


(…そもそも、どうして私、エリーナのことを”教育”しようと思ったの?平民が貴族と同じくらいの力を持っても、別に悪いことではない。単純に国力が増強するのに…なんでですの?)


 周囲の人々の言動もそうだが、自分のこともわからない。何が、自分をエリーナへの虐めへと動かしたのか。


 …冷静に考えると、マリアンヌは恐怖に陥った。見えない何かによって、人々が…否、この世界全体が操られている気がする。


(まるで、出来の悪い物語みたい。エリーナが悲劇のヒロインで、私が悪者、という筋書きの物語…。その筋書きに沿って動かされているような…)





「その通り。ここはキミを断罪するために即行で書いた物語だからね」


「え…?」


 突然、マリアンヌの目の前に、青年が現れた。海面の上に、まるで地面の上に立つかのように降り立った。


「な、何者ですの!?なぜ、水の上に立てるのですか…!?」


「ぼくは秋原清人あきはらきよと 。この世界の神様さ」


「か、神様…?」


神様と名乗っているが…白いシャツに、青色のズボン。威厳をまったく感じない男だ。かろうじて海の上に立っているところが神様らしく見えるが…。


「そ、それより、断罪って、どういうことですの!?」


「…そうだね。どうせ君は死ぬ運命なんだ。教えてあげよう。そして、真実を知って絶望するがいいさ」


「な、なにを・・・、う、うぅ…!?」


マリアンヌの頭に、ある記憶が流れ始めた。






 マリアンヌは以前、日本のとある学校に通う少女「真理愛まりあ」だった。真理愛はいつも、「恵里菜えりな」という少女を虐めていた。


「あんたってさー、いっつもキモイんだよねー。オタク女ってマジでキモイ。なにその絵?なんでビキニの女の人が剣を持ってるの?」


恵里菜は同人ゲーム制作部に所属しており、いつもゲームのキャラクターのイラストを描いている。そんな恵里菜に対して、真理愛はいつも誹謗中傷の言葉を出していた。



 ある日、真理愛は昼休みに、恵里菜の水筒に利尿剤を仕込み、失禁させてしまう。


「あ、あのっ、・・・と、トイレに行かせてっ!」


囲まれている方の女子生徒――恵里菜は、焦った声で懇願するが、囲んでいる方の数人の女子生徒たち――真理愛たちは、意地の悪い笑みを浮かべるだけで、その場から一切動こうとはしない。


「ねーねー、なんだっけ。アンタがいつも見ている、キモイ魔法少女アニメの主題歌。『エターナルシャイニング』だっけ。あんたのそのキモイ声で歌ってみてよ。歌ったら通してあげる」


「も、もう限界なのっ!お、お願い・・・っ、あ、あぁ・・・!」


やがて恵里菜は、悲痛な叫びを出して・・・


「えー、正義の魔法少女が、わたしたちのお願いを聞けないのぉ?」


「も、もれちゃ・・・あぁ・・・」


恵里菜の足元に水が流れ落ちる。彼女は失禁してしまったのだ。


「いやあぁ・・・みないで・・・みないでぇ・・・!」


真理愛たちは、失禁してしまった彼女を見て、クスクスと笑う。


「あー、オモラシ!クスクス…恵里菜、やっぱりアンタ、キモイね。高校生なのに魔法少女アニメを見て、しかも、オモラシなんて。何が『友情はパワーになる』よ。何が『絶対に負けない、愛と絆の力』よ。ほんと、アニオタってキモイ」


「恵里菜の股間がエターナルシャイニング!」


「あー、ウケるー! オシッコパワーで敵をやっつけろ! 輝け恵里菜のオシッコビーム!

 あっはははははは!」


 そのことで心を病んだ恵里菜は手首を切り、自殺をしようとした。幸いなことに傷が浅く、出血のスピードが遅かったため、なんとか一命をとりとめたが、心の傷と、出血によるショックにより、意識が戻らない。


 恵里菜の友人は、学校近くの神社で必死に祈った。

「どうか恵里菜を助けてほしい。恵里菜を傷つけた者に天罰を与えてほしい」と。


 そんなある日。恵里菜の友人たちの頭に、声が響いた。


「僕は秋原 清人。かつて君たちが神と呼んでくれていたライトノベル作家だ」


 秋原 清人。彼はかつて、数々のファンタジーライトノベルを生み出した天才作家だった。イラストレーターでもあり、ファンの間から「ライトノベルの神」、「萌え絵の神」と呼ばれていた。残念ながら、病により、27歳という若さで亡くなってしまったが、アニメ・ゲームオタクたちの熱くて厚い信仰により、神となったらしい。


「きみたちの願いを聞いた。いじめっこ真理愛のことは任せてくれ。僕はライトノベル作家だ。異世界転移ぐらい簡単にできる」



その翌日、真理愛は本当に行方不明になった。



「マリアンヌ、いや、真理愛。ここは僕が書いた物語の世界。きみを苦しめるために書いた物語。

 そして、キミをこの世界に転移させたのは、僕さ。

 キミの周辺の人物の言動がおかしいのは、即行で書いたせいで、物語の設定が雑だからさ。

 キミの両親の顔を思い出せないのは、両親の詳細な設定がないからさ」


冷たい声で、秋原は真理愛に言い放った。


「…つ、つまり…、あんたは、私をこの世界に誘拐したってこと!?」


「誘拐じゃない。転移だ」


「ふざけんじゃねーよっ!元の世界に帰せよっ!」


「帰すわけがない。きみのせいで恵里菜という女性が傷ついたんだ」


「あの女が悪いんだろーが!あんなキモイ萌えイラストばっかり描いて!キモイゲームばっかり作って!」


真理愛としての記憶が戻ったマリアンヌに、貴族、淑女としての面影はなかった。マリアンヌの口から、きたない言葉が次々と出てくる。未来の王妃を目指していた少女とは思えない。


「…恵里菜という女性が君に何かしたのかい?恵里菜はただ絵を描いていただけだ。絵を描くのが好きなだけだ。誰も傷つけていない」


「オタクは社会のゴミなんだよっ!駆除しないといけねーんだよ!」オタクは死ね!オタクは死ね!

 しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねっ!!

 恵里菜死ねえええええええええええええええええええええええぇ!!!」


突然わけのわからない世界に連れてこられ、冤罪で無人島に放り込まれ、しかも友人を失うというショックを体験したからだろう。マリアンヌは狂い、叫び続けた。


「…ゲームオーバー、だよ。マリアンヌ、いや、真理愛。きみはこの後、悪天候によって荒くなった波に飲まれ、海の底へと沈む」


「ふざけんなっ!私は・・・きゃああああぁ!!」


急に荒くなった波で丸太がひっくり返り、マリアンヌは海へと落ちてしまった。


「た、たすけてえええぇ!お、溺れるぅぅぅぅ!!」


マリアンヌは必死にもがぎ、丸太へと戻ろうとするが、丸太は波に乗って彼女から離れていく。


「だ、だすけ・・・ごぼっ、ごぼっ!だ、たす・・・」


マリアンヌはだんだん海へと沈んでいき、酸素を奪われていく。



「く、くるし・・・・・だす・・・いやだ・・・・じにだくない・・・・」

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