第142話

君の可愛さに溺れてしまうのは嫌いじゃないけど

翻弄されてばかりじゃつまらない。


それに、可愛いことばかり言う君を

そろそろいじめたくなってしまった。



「 じゃあ、そんな吸収力がすごい恋愛小説家の

ユウミ先生。今日は何の日でしょうか?

僕に渡すもの、何かない? 」



君の手荷物を見る限り、チョコレートを

持って来ているようには見えない。

慌てる君が見れそうだ。


案の定、不思議そうな顔をする君。


やっぱり。

バレンタインデーなんて、今まで君は

意識したことがなかったんだ。


恋人なのにチョコレートを貰えない切なさと、

君がやっぱり何も知らないことを再確認し

安堵する気持ちが混ざり合う。


結果、困った顔をしている君が驚くほど可愛い。



『 ごめん。

このタイミングで渡すとは知らなくて

今日は家に置いてきた。

明後日でもいい?持ってくるよ。 』



え?

用意してたのか。


君からチョコレートを貰えるなんて。

あまりの嬉しさに、つい抱きしめたくなる。


いけない、いけない。

誘惑に流されそうになる気持ちを抑えて

余裕なフリをする。



「 用意してくれてたんだ?嬉しいな。

だけど、今日以外のタイミングとかある? 」



僕がそう言うとすごく不思議そうな顔をする君。


ん?

そんなに変な発言をしたつもりはないんだけど。

どこか噛み合っていない。



『 普通、合鍵はこのタイミングで渡すんだね。

何も知らなくて、ごめんなさい。

もっと自由で今どきの関係が築けるように

これからも私に色々教えてください。 』



は?合鍵??

世界中の恋人たちが無垢な気持ちを伝え合う

バレンタインデーという純粋な日に、

まさかの合鍵を渡すなんて。

不純すぎるだろ。笑

バレンタインデーを大きく越えていった君の発想に、僕は爆笑してしまう。


可愛すぎ。


君からしたら初対面の僕に合鍵なんて

危なすぎるでしょ。笑



「 そんなこと、ある?

ユウミは本当に天然記念物だね。

可愛すぎてやばい。合鍵はやばい。

それは、かなり信頼関係がないと無理でしょ。

このタイミングでは、絶対ないよ!笑

てか天然記念物すぎて、ホント危ないから。

間違えた相手が僕で良かったね。 」



笑が止まらない。

こんな可愛い子、他にいるか?


やっぱり、君のことは僕がもらう。



『 でもじゃあ、逆に今日は何を渡すのよ。 』



不機嫌な顔でボソッと言った君。

さらに笑ってしまう。



「 ごめん。可愛すぎて笑いが止まらない。 」



そう言って、君の頭を撫でる。


・・・


あー、駄目だ。

たまらなく、好きだ。

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