第100話

実家に着く。

どうやってここまで帰ってきたのだろう。

全く思い出せない。



『 おかえりなさい。 』



母親の声で我にかえる。



「 ただいま。 」



途端に涙が溢れてしまう。



『 ユウミ、どうしたの? 』



何て言い訳をしていいか分からない。

もう一杯一杯の頭で必死に考える。



「 頭が、痛くて。 」



母親の顔色がみるみる変わる。



『 どう痛いの?あなた、ちょっと来て。

お願い!!早く!!!ユウミちゃん! 』



大袈裟すぎて笑える。

過保護も良いところだ。恥ずかしい。

こんなんだから、振られたのかもしれない。

うんざりする。



「 ごめん。大丈夫。もう治ったみたい。 」



医師である父親に仮病を通す自信がなく、

すぐに嘘を訂正した。


・・・


もう考えるのをやめよう。

1年前に戻ればいいだけだ。


以前のように両親の言う通りにすればいい。


退屈で窮屈で狭くて、死ぬほどつまらない。

けれども私にとっては、これほどない安定した

平凡な"檻の中"に。


戻ればいいだけ。

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