第76話

15分ほど車を走らせたリョウジは

湖が見える橋の近くの駐車場に車を停めた。



『 ユウミ、大丈夫?少し降りられるなら

冷たい風に当たらない? 』



リョウジが私の頭に優しく手を置き、

私のことを伺うようにして聞いてくる。



「 うん。私も風に当たりたい。 」



・・・


二人で車を降りて、オレンジ色の街灯が

規則正しい間隔で並んでいる橋まで歩く。


湖の反対側の岸の夜景が見えた。

綺麗な夜景。

心が洗われるようだ。


それと同時に少し切なくなる。



「 リョウジは誰かを本気で好きになったこと

ある? 」



夜景を見ながら、リョウジに問いかけた。



『 あるよ。すごく好きだった。 』



あっさりと返ってきた言葉に驚いて

リョウジの方を見る。


街灯の光がリョウジの瞳を照らす。

いつになく真剣な眼差しで遠くを見ている

リョウジ。



「 その人のこと、何で離しちゃったの? 」



リョウジが大切に思っていた女性のことを

聞くのが怖い。だけど、知りたい。

複雑な感情で、私の胸はドクドクと鳴る。



『 離したんじゃない。

彼女が僕の前からいなくなったんだ。 』



リョウジの瞳が揺れているように見える。



「 どうして追いかけなかったの? 」



私がそう言うと、諦めたように笑うリョウジ。



『 追いかけることなんてできなかった。

僕にはそんな資格すらない。

だからせめて、彼女の幸せを、、

心の底から願った。 』



意味深なことを話すリョウジ。

私には計り知れない"何か"があるのだと

悟った。

それと同時に、心底虚しくなった。


リョウジはその彼女のことを忘れてないんだ。

忘れるこどが、できないんだ。

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