第16話

『 じゃあ、そんな吸収力がすごい恋愛小説家の

ユウミ先生。今日は何の日でしょうか?

僕に渡すもの、何かない? 』



意味がわからない。

渡すもの?


あ。もしかして、合鍵?

それは確かにいつも小説に書いてある。

いつでも来ていいよ、的なあれね。


私は正直、"いつでも"は困るのだが。


それに、さすがにハードルが高い気がする。

でも、タイムリミットが迫っているし

普通のカップルより急がないといけないし。

このタイミングで渡すのが自然だったのか。

なるほど。


でも、生憎今日は合鍵を持っていない。家だ。



「 ごめん。

このタイミングで渡すとは知らなくて

今日は家に置いてきた。

明後日でもいい?持ってくるよ。 」



『 用意してくれてたんだ?嬉しいな。

だけど、今日以外のタイミングとかある? 』



すごく不思議な顔をされた。

世の中のカップルはそんなにフリーな関係を

築いているんだ。すごい。

私はこんなにも世間を知らずにここまで来たのかと、自分自身に呆れた。



「 普通、合鍵はこのタイミングで渡すんだね。

何も知らなくて、ごめんなさい。

もっと自由で今どきの関係が築けるように

これからも私に色々教えてください。 」



私がそう言うと、リョウジは吹き出した。



『 そんなこと、ある?

ユウミは本当に天然記念物だね。

可愛すぎてやばい。合鍵はやばい。

それは、かなり信頼関係がないと無理でしょ。

このタイミングでは、絶対ないよ!笑

てか天然記念物すぎて、ホント危ないから。

間違えた相手が僕で良かったね。 』



え?

そんなに爆笑する?

酷くない?


でもじゃあ、逆に今日は何を渡すのよ。

全く意味がわからないし、爆笑されたこともあって、どんどん不機嫌になる私。



「 ごめん。可愛すぎて笑いが止まらない。 」



そう言って、私の頭を撫でるリョウジ。


・・・


もういいから。

さすがに、笑すぎだから。

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