第73話

玄関から動けなくなった私を前に、先輩は土下座をし始めた。



「朱南···俺には朱南しかいないんだ···!朱南の尻には手を出さないから、だから俺の前からいなくならないでくれっ!!」



 赤ちゃん返りされるだけでも散々なのに、尻にまで手を出されたら、私はすぐに学校を辞めて、マスコミに蓮見先輩の実態を垂れ込む。



「初めて会った日···朱南の後ろ姿を見て、朱南の尻に一目惚れしたんだ····。」



 だからさ···、なんで前じゃなく後ろなの?!それは女として自信を持つべきかどうかわからないよ。



「朱南の尻ばかりを見つめるうちに、いつしか触れてみたいと、そして入れてみたいと思うようになったんだ····。」


「先輩····、どれだけ自分がひどい変態ぶりをさらけ出してるか自覚してます?」


「····俺にはたまに、お前の顔も尻に見えてくることがある。」


「重症ですね。」


「ああ重症だ。」


 

 何同意してんだ。人様の顔が尻とか失礼すぎだろ。死にたいのか。



「先輩···そんなにお尻が好きなら、別に私じゃなくてもよくないですか??心陽君とか、もっと手頃なのがいるでしょう。」


「いや···あいつの尻は、もはや尻じゃない···。」


「·········」


「朱南の尻には、神秘が隠されている。」



 先輩は天井に向かって大きく深呼吸すると、恍惚の表情で急に饒舌になった。



「朱南の程よく肉づいたふるりと震える尻は、神の最高傑作····いや、神そのものといっても過言ではないだろう。」



 それは過言だろ。



「わかるか?お前が走る度にプルンプルンと揺れるんだぞ?」


「それはつまり···巨乳の人が走ると胸が揺れる、みたいな感じですか??」


「お前にないものを持ち出すな!今は尻の話をしている!」



 私は肩にかけていた鞄から分厚いテキストを取り出すと、先輩目掛け、縦に勢いよく投げつけた。

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