第74話

しかし、そのテキストの当たりどころが悪かったようで、



「ママ~!ポクのお嫁しゃんになってママ~!!」



 あっという間に赤ちゃんスイッチが入ってしまった先輩。



「ママ、ポクのおうちはサプリメントや医薬品、電化製品なんかも扱ってる総合商社だから、ママの研究職を活かせると思うんだ~!だからポクと結婚しよーよー!!」



 理由づけがしっかりとはしているものの、まさか赤ちゃん返りの状態でプロポーズされるとは思ってもみなかった。



 本気か本気じゃないのかよくわからない。



「せ、先輩ほどの人ならいくらでも素敵な人がいるでしょう?素敵なお尻の持ち主がいくらでもいるでしょう?!」



「もうママったら~そんな卑屈にならなくてもさ。


ママのお尻はね~真ん丸で可愛くって、未知との遭遇なんだよ?SFなんだよ?え?ウソ?何言ってんの??SFなわけないじゃん!もう、ポクちんのパカパカ!


あ、ポク、ママのお尻の標本ほし···、じゃなかった!ママのお尻の形取りしたいな~!


ああ神様、次産まれ変わる時は、何に産まれ変わってもいいから、ママのお尻から産まれたいなあ。ポクね、七夕の短冊にも書いたし、伊勢神宮の絵馬46枚にも書いたんだよ?転生してもママのお尻から産まれますようにーって。因みに46は"しり"をもじった数字♡にゃんにゃん!


ママのお尻はきっと、いや絶対に世界一だよ♡もっと自信持ってよね!ふふふ。」



「そういうのは世界見てから言って下さい。」



 尻ばかりに囚われず、もっと幅広い視野に目を向けるべきだと私は思う。



 そうピシャリと言い放ち、ようやく動けるようになった私は玄関から出て行こうとした。



 でも玄関から出ると、そこには秋人と琉生が立っていた。


 玄関開けたらド変態とド変態。そして振り返ればヤツがいる。私は見事、挟みうちにされてしまったのだ。



「····朱南···さっきたまたま蓮見先輩の部屋に入っていくのを見たんだけど、お前···後ろから抱きつかれてなかったか···?」



 琉生が真っ暗な顔をし、蚊の鳴くような声で私に言った。



「ち、違うよ!たまたまちょっと転びそうになって、先輩に支えてもらっただけだよ!」



 私が慌てて弁解するも、秋人はじっと私を見据えたまま、特に口を開く様子はない。



 でも秋人が自分のスマホを取り出すと、その画面を私に見せてきた。


 そこにはライン画面が出されており、秋人から私へ送ったラインがズラリと並んでいる。


 後ろから秋人がスマホの画面を指でスクロールしていくと、「朱南どこ」という4文字だけの同じメッセージが延々と続いていた。



 秋人の指が心なしか震えている。きっと画面をタップしすぎた後遺症が現れたのだろう。

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