第70話
緩んだ右手を離し、そっと立ち上がると、先輩が壁の方に寝返りを打って横向きになった。
「ふふふ」と寝言で笑う先輩の頭を一発はたき、帰ろうとしたところで、尿意を感じた私。きっとホッと一息ついた拍子に、張っていた糸が切れたのだろう。
どっと肩の荷を下ろし、部屋のトイレの中へと入った。
私は今まで、琉生と蓮見先輩の部屋には入ったことがあると言ったが、さすがにトイレを使ったことは一度もない。
やっぱり男子の部屋のトイレって使いにくいし、何より部屋に一緒にいる状態では恥ずかしい。
でも今は先輩寝てるし。そう思って、気を抜いたままトイレの中へ足を踏み入れたのだ。
そんな驚くようなことなんて、この先早々ないだろうと思っていた。
だって、飼育中のラブドールに妹陵辱VRだよ?これ以上何に驚けと────?
────トイレの側面、向かって左側、
顔だけ振り返っている私の全身が、そのまま壁紙にプリントされているという事実。
ほぼ、いやそのまま実寸大だ。
ふぅ、やれやれだぜ。悪いが壁紙に私の全身がプリントされていることには、さして驚きはない。
しかし問題なのは、プリントされている私が素っ裸だということ。背中とお尻を見せている、あられもない姿。
しかしそれは"見返り美人"などという健全な芸術品ではない。
どう伝えればいいのか···、お尻だけが3Dのようになっているのだ。
そう、それは世の男子が一度は試してみたい、でも実際使い終わった後はひどく虚しさを感じる代物、"尻版オナホール"。
マッパでお尻をつき出すような格好の私の尻部分だけがプックリと飛び出ているのだ。
飛び出す絵本のように。トリックアートのように。
────ああ、思い出した────
漫画の中でもこんなシーンがあったのを。
そうだ、琉生が不良との喧嘩の際に空けてしまった教室の壁穴。
誰もいない夜の教室で、忘れ物を取りにきた心陽がうっかり、壁穴に身体がすっぽりハマってしまうのだ。
なかなか抜け出せない心陽の下半身を何者かが脱がしにかかり、容赦なくまさぐられる心陽。
見えない恐怖に怯えながらも、彼はそのいじらしい手つきに快感を覚えていくのだ。
『ほら、ねだってみな───?』
その声は愛する琉生の声で、煽られ興奮しまくった2人の喘ぎ声が夜の校内に木霊する。
もう腐女子にはたまらない、ウハウハな最強シチュエーション。
でも今私の目の前にあるのは、ゲンナリする最低シチュエーション。
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