第69話

「帰ろう帰ろう」と念仏のように頭の中で唱えている私。



 しかし蓮見先輩がドアから身を乗りだし、私にバックハグをする。



「朱南····。」


「!!///」



 低音ボイスで後ろから囁かれて、耳が蕩けそうになった。というかこんなハグされてるところを他の生徒に見られるわけにはいかない!



 私はバックハグされたまま玄関先へと後退すると、思わず自分のお尻が先輩のどこかにぶつかった。


 その瞬間、先輩が「ぁ」と艶っぽい声を出し、後ろを振り返ると、先輩が前屈みになっていた。



「ま、ママ~、ママってほんと柔らかいネ~ふふふ。」



 玄関に入り、あっという間に赤ちゃん返りしてしまった先輩。さっきの低音ボイスから一転、甘えたおネエのような声になっている。




 先輩が玄関に座り込むと、あくびをして目を擦り始めた。



「ママ~、なんだかポク眠くなっちゃッたの~。一緒ねんねして~。」



 ああ、ようやくお昼寝の時間がやってきた。ベッドに放り込んで帰ろう。


 私は先輩を引っ張っていき、ベッドに寝かせると、先輩が私の手をギュッと握ってきた。



「···ママ、ポクが眠るまで帰っちゃダメだからねっ?!」


「はいはい。」



 私の右手を拘束したまま、自分の親指をチュパチュパと吸い始めた先輩。一瞬、私の指を吸おうとしたから、思い切りビンタしてやった。



「ママ、ママ、···ポクの大しゅきなママ···。」


「······」


「ママ····ママ、ポクだけの···ママ····」



 ひとしきりママママ言いまくった先輩が、ようやく寝息を立て始めた。



 ···私、何やってるんだろう···。私がこの世界に転生した意味って何なんだろう。



 もしかして私ってメインキャラたちの本質をあぶり出すためだけの存在なんじゃない?



 BLどこいった??─────

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