第59話

私は力の限り琉生の頬を殴った。


 そして縄跳びはキッチンハサミで切り分け、首に巻き付けられない長さにぶつ切りにした。



「朱南!朱南!!イヤだ俺を捨てないでキライにならないでぇ!!朱南あぁうわああ"あ"あ"☆↙♪▣◈₩▷★₱₯!!」


「ちょっっ!!」



 琉生がどさくさ紛れに私の腰回りに抱きついてきて、涙と鼻水をトレーナーにつけてきた。



「朱南に嫌われたら俺死ぬ!!朱南の実家行ってナイフで自殺するから!!」


「じゃあ嫌われるようなことしないで。」


「でも朱南のこと陵辱したい気持ちは変わらないから!」


「そこ変われよ!!!!」



 私は琉生を蹴飛ばし距離を取ると、駄々をこねる3才児のように部屋を転げ始めた琉生。



「朱南!!朱南!!結婚して結婚してよ朱南あぁ!!毎日ご飯作るし掃除もするから!!


歯も磨く!服も着替えさせるしお風呂にもいれてどこもかしこも綺麗に手で洗ってブシュブシュッッ、へへへ、あ、それから回覧板も書くし持ってく!!うん、俺ご近所さんともそつなく上手くやるし!


あ違う違う!違うよ?浮気とかそんなんじゃないよ?ご近所さんは独り身のオッサンしかいないようなとこにしか住まないから!!あ、それじゃあ朱南がオッサンに陵辱されちゃうかもしれない!!


どうしよう朱南!人気ひとけのないジャングルに住んだ方がいっかな朱南!!あきなあ"ああ"あ"。」



 口を開けば「朱南朱南」と呼びまくり、何か不安要素があれば机やベッドの角に頭をぶつけ、全身全霊で転げ回る大学生。


 部屋から出て行こうとすればやはり足を掴まれ、「結婚して結婚して!!」とせがまれる始末。



 その場の収拾がつかなくなり、面倒になった私は、仕方なく、そのよくわからないプロポーズを保留にすることになったのだった。

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