第53話

パニックに陥る琉生を15分ほどさすり続けたところで、ようやく震えが落ち着いてきた。


 すると、エサを食べようと必死にパクパクする池の鯉に酷似する琉生が、私を見て死人のような掠れ声を出す。



「き、今日、しゅ秋人と2人で子作りする気だったんだろー····」


「······は。」


「だだだから朱南、今日そんなにおしゃれしてんだ····。やたら可愛くしてさー···」



 え?····今なんと?


 "子作り"って言った??



「それ、子作りに励もうとする時の求愛行動的な意思表示だろー···?」



 私はクジャクか何かか。



「な、何馬鹿なこと言ってんの?!!そんなワケないじゃん!!はあっ?!」


「じゃあ今日そんなにオシャレしてんのって何でなの·····ねえ何でなの····!」



 糞ウゼー····


 さっきまで嬉しそうに私にたけのこの里を見せてたのに、どうしたらそんな簡単にスイッチ切り替えられるの?あんたの無気力スイッチどこにあるの?!



 こうなったら女の武器を使わせてもらうしかない。私だって女だってとこ見せてやる。



「な何でもないよ!てか私だって一応女だしさ···た、たまにはこういう格好したっていいじゃん!·····ダメ??」



 可愛く上目遣いで「ダメ?」とお願いしてみた。ぶりっ子キャラの芸能人や心陽は幾度となくこの上目遣いで男たちを落としている。



 これで上手く琉生のスイッチを切り替えさせることができるはず!キュンってさせてやるわよ琉生!



「ねえ朱南····、秋人と俺、どっちが好き?

ねえ、どっちが好き?!ねえねえ?!?」



 変わらず、どんよりと曇った顔色で私に問い詰める琉生。ゾンビ臭が凄い。



 信頼も実績もない女の武器は2秒でこの世を去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る