第52話

「朱南、何飲む?ジンジャーエール?デカビタC?」



 とてもさっきまで泣いていた男とは思えない。大変嬉しそうな顔でいそいそとジュースとお菓子を用意している。



「朱南が好きな"たけのこの里"買っといたんだ。ほら見ろよ。」



 小さな冷蔵庫の扉を開けて、私に「見て見て」と潤んだ瞳で見つめてくる。


 面倒だから冷蔵庫から出して見せろよと思っていたら、なんと冷蔵庫から出せない理由があったのだ。



 中を覗くと、そこには大量の"たけのこの里"が···。6段の山が7つ。見事、冷蔵庫には里ができていた。


 そのうち山脈ができそうだ。



「い、いくらなんでも買いすぎじゃない?!」


「だって朱南これ好きだって言ってただろ?」


「ま、まあそうだけど···」



 前世の母を思い出す。


 母がたまたま買ってきてくれた焼きプリン。美味しくて美味しくて、「またこれ買ってきてね!」と言ったら、次の日には焼きプリンが3つも用意されていた。



 そんな母の心温まるエピソードを根底からくつがえす琉生。



「そういえば秋人の部屋には"きのこの山"があったな···。」



 私が思い出したようにポツリと呟けば、琉生が真っ青な顔面で手足を震わせ、何か悪魔めいたものが取り憑いたかと思うほどのシャガレ声を上げた。



「な"····しゅ、秋人の部屋に入ったのか···?!」


「え?う、うん···だからさっき着替えを取りに行ったって、」


「うわああああ"あ"あ"ァァァァ」



 いきなり奇声を放ったかと思えば、膝を床につき頭を抱え崩れ落ちる琉生。



「え?!ど、どうしたの琉生ッ?!持病のしゃくが出たの??!」


「ダメだああぁぁ俺はやっぱりダメなんだ捨てられるんだぁああ」


「ッは??い、いきなり何の話?!!」



 私はとりあえず琉生の前にしゃがみ、琉生の背中を何度かさすった。

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