第36話

でも一番怖いのは電話だ。


 秋人は高校の頃から、朝のモーニングコールと、寝る前のおやすみコールを欠かさずかけてきていた。


 高校の頃は、毎日同じ時間に授業が始まるから良かったが、今は2限から始まる授業もあれば、お昼からの時だってある。


 それなのに、大学に入っても変わらず7時半にモーニングコール、22時におやすみコール。


 あまりにウザくなって、それを無視した時はほんとヤバかった。



 朝9時に目が覚めると、なんと着信履歴が2405回。



 目を疑った。秋人が2405回、着信ボタンをタップしていたことを考えると、スマホ画面の手汗汚れが半端じゃないと思う。


 何かあったのかと慌てて電話をかけると、いつもの優しい秋人の声で、こう言った。



「朱南にはずっと俺がついてますから、安心して。」



 とても2405回かけてきたとは思えない柔らかい口調で、自分の腕に鳥肌が立ったのを覚えている。


 でもそれより怖かったのはその後。



「っあ、ご、ごめんね、秋人....わ、私昨日早くに寝ちゃってたみたいで....気付かなくて....」


「ああ、大丈夫。朱南の声が聞けただけで俺は満足ですから。」


「っ!」



 思わず部屋の扉を見た。


 秋人の声が、部屋の外から聞こえたのだ。



 ど、どうしよう....


 今秋人は、部屋のすぐ外にいる....。


 気付いていないふりしてこのまま電話を切るべきか.....うん、扉を開けて部屋に入ってこられても怖いから、気付いていないふりしよう....



 でもスマホから聞こえた秋人の言葉は、さらに恐怖を煽るものだった。



「昨日の夜から誰もこの部屋には来ていないから、安心して。」



 ────安心できない。


 安心できないって、ALSOKに言っといて秋人。

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