第4話

この世界が漫画の中であると気付いたのは入学して半年経った頃だった。



「.....ファブリーズが20本いるな。」



 体育が終わり教室で着替える野郎共の中で本を読みふける(ふりをする)私は、あまりの男臭さにファブリーズの単語を呟いたその時、急速に頭の中が真っ白になった。


 これが転生していることに気付く瞬間、というやつだ。


 真っ白になった後は酷いものだった。


 激しい倦怠感と吐き気、胃痛腹痛食あたりetc.....



 仕方無く気の進まない保健室に行って、いつもの軽いノリを携えた保険医、高梨たかなし先生に向かって私は言った。



「.....せ、先生って、実在するとかなりウザいキャラですね.......。」



 ベッドの縁に座る私の前でタレ目をさらに下げた保険医が笑いながら言った。



「はあ?まさかお前、俺にそれ言うためだけにここ来たんとちゃうやろな?」



 ああ思い出した、この男が操るのは大阪弁ではなく三重弁だ。


 確か『狼さんに食べられちゃう♡』4巻でこの保険医である高梨たかなし先生が奥さんと喧嘩し三重の実家に帰ったなんて1コマがあったはずだ。


 

 つまり今私が体調不良を覚えつつ思い出したのはここがBL漫画、『狼さんに食べられちゃう♡』という略したくても略せない漫画の世界だということ。


 おかしいなとは思ってはいた。


 だってこのセレブしか通えない男子校に、理工学系の研究者である父と母を持つそれなりにセレブな私が通う羽目になっているのだから。


 私は女だ。戸籍上メス♀としてこの世に生を受けた。


 しかもそれなりにセレブの家だ。普通セレブの家なら変な虫がつかないようにと女子校に入学させられるのが普通だろう。

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