霊媒ファイター!神だのみはしない

釣ール

時代は変わった?かみつくAI霊

 男子高校生、畔打あぜうちは細い身体で試合をすることに嫌気いやけがさしていた。




 今が確かに昔に比べれば良い時代・・・なんてことが一概いちがいに言えるかは分からない。




 二○二二年で中学生だった時に受けた授業も一回り上の先輩ファイターから聞けばたいしてちがいないとかたよった話かもしれないとはいえ同意した自分がいるから教師の台本に付き合わされただけだと知ると空に浮かぶ雲を殴りたくなるやるせなさが生まれる。




 いつもは友達と帰るのだが今日はひとりだった。

 彼女との遊びも将来の不安を考えると後ずさりしたくなる。




 今どき恋を純粋じゅんすいに楽しめる高校生なんているのだろうか。

 愚痴ぐちをかかえて『ああはなりたくない』と腹の中で考えては仕方なく大学や専門にいって就職するだけ。





 畔打あぜうちはそんな人生が嫌だったので戦い続けている。

 リングの上と現実社会を。





「おい畔打あぜうちじゃねえか。 高校生だからって俺をずっと無視しやがって」





 ジムで子供の頃から知り合った中卒らしい同い年の路半ろはんが話しかけてきた。

 今は別のジムにいるから分からなかったが。





「ずいぶんと現実じゃ大人しいじゃねえの。 高校生活を満喫まんきつしてそうな男には思えねー」





「俺にかまうな。 今さら」





 リングの中だけにしてくれよ荒っぽいキャラは。

 さすがに街中では路半ろはんも大人しいけど。



「格闘家やプロレスラーはリングの中でのみ発言権はつげんけんがあるルールだったか? 今じゃSNSの普及ふきゅうで守るやつが少ないけどな」




「ストレスがたまるのは分かる。 でもここでスパーリング感覚で声をかけるな」




 路半ろはんは周りにみられそうになったタトゥーをそでで隠しながら近づいてきた。




「お前に相談がある。 金になるか分からないが特製とくせいのリングで心霊現象が待っているらしい」




 はあ?

 みがまえていたら新しい詐欺か何か?

 中学生から高校生になるころに人はだますことを覚えるとか意味不明なことを聞いたことがある。




「お前も変わっちまったな」




「話は最後まで聞け。 予算十万か十五万かかる存在しないで幽霊なんか信じるか。 でもな! 俺たちちょっとした映像制作に関われるかもしれねえ! 殴ってみたいだろ?」





「存在しないもんなんか殴れるかよ。 俺は路半ろはんみたいに戦い続けられないんだ。 テストもあるからやめておくよ。 誘ってもらって悪いけど」





 すると路半ろはんは先回りして畔打あぜうちの道をふさぐ。





「AI生成が非合法な形で実体化した。 俺はお前のジムに無料体験で入っていた女性を見た。 でもその人は時おり手足がバグっていた。 お前たちは分からなかったみたいだから映像に撮ってたんだよ」





 執念深しゅうねんぶかいやつ。

 畔打あぜうち路半ろはん復讐ふくしゅうか何かだと考え無視をしようとした。





 彼はスマホの映像を畔打あぜうちに見せつける。





 この女性に記憶はない。

 ただ手足は確かにバグっていた。





 しかもその女性を操作しているのか何らかの合図が送られていた。

 誰かが端末を使って女性をあやつっているのは確かだった。





 そして女性はカメラの方向へウィンクしていた。





「そのあと俺はAI使いに殴られた」




 バレてるじゃないか犯人に。





「犯人の姿はないのか?」





 つい畔打あぜうちも熱くなってしまって路半ろはんにつめよる。





「さすがストレスでタイトル何個か取っただけあるね。 金も払うし俺を殴ったAI使いのやつを倒してくれ」





路半ろはんもだ。 うちのジムに嫌がらせしたことを後悔させてやる」





「で、犯人の正体は映像にはギリギリいるかどうかだ。 でも今話題の格闘リアリティショーで子供たちに人気のファイターらしい」





 それが誰かを知りたかった。

 命知らずのバカめ。

 いや、AI使って間接的かんせつてきな恐怖を作ることが出来るのなら犯人をなめるわけにはいかない。





路半ろはんは調査を続けてくれ。 俺は勉強と練習と共に犯人の居住区きょじゅうくをつきとめる」





 路半ろはんは笑みを浮かべ、畔打あぜうちと肩を組み始めた。





「やっぱお前はそれくらい好戦的こうせんてきな方が似合うぜ」





 だから嫌だったんだよあ。

 こういう一面いちめんを隠して生きていきたいから。





 それから調査と練習、勉強は続き路半ろはんの格闘家らしからぬ映像記録であっという間に犯人のアジトをつきとめた。





「知名度アップのために他団体で目立っておきながら嫌がらせか。 世の中単純たんじゅんなやつばかりじゃないな」





 こらしめてやる。

 二人でアジトの中まで進むと数多くのAI生成で産み出されたらしい霊がたくさんいた。





 そこには『失敗作』と書かれていた。

 畔打あぜうちの怒りが顔の血管を動かす。





「てめえで作っておいて失敗作だなんて。 クソ野郎め!」





「でもこいつら倒さないと!」





 分かってる。

 凶器きょうきは幸いにももっていなくて格闘のみAIたちは行ってくるので二人で戦いまくった。





路半ろはん! お前の手間をはぶく。 真ん中にAI霊達を集めろ」





 畔打あぜうち見立みたてならまだAI生成された映像が端末たんまつから自立じりつして動く技術は二○二四年でもなかったはずだ。





 もっともAI使いがそこを考えているかは分からない。

 ただゆがんだバグだらけのAI生成された霊達はなのは分かっていた。





 だとしたら真ん中に捨て端末たんまつがあるはず。




 それか何かしらの機械が。

 路半ろはんにAI霊達をおびき寄せてから畔打あぜうちがアジトの壊れた部分に近づき、路半ろはんがよけるのを確認してから蹴り上げた。





 ギャアアアア





 AI生成された霊達をはんぶん退治たいじすることが出来た。





 しかし生々しい声だ。

 生きているヤツらだったのか。





 少しだけ罪悪感ざいあくかんがめばえたが畔打あぜうちはふりきるようにアジトの奥へと進んで行く。





「思ったよりやるなあお前ら」





 彼が犯人か。

 流行っている格闘リアリティーショーは受験期に悪いと考え見るのをやめていたから人気らしいのに誰か分からなかった。





「AI霊を使って無料体験か。 俺たち選手のデータでも盗みに行ったのか?」





 まさかと笑った犯人のAI使いは昔でゲームにあったアーマーのような霊をまとっておそいかかってきた。





「わざわざ他団体の会場まで行って偵察ていさつするのも馬鹿らしいからな。 知名度目当てでやってくるお前のところにいるジムのやつらに嫌がらせしたくて」





 ちっ。

 誰もそんなこと畔打あぜうちには言わなかった。




 学業に専念している俺に気をつかっているだけか畔打あぜうちが誰にも興味がないだけなのか。





 だから路半ろはんは離れたのか。

 あとで謝ろう。

 近くの相手に興味関心がなかったことを。





「馬鹿にするだけなら余計なことするな。 お前が活躍している興行こうぎょうでやれ。 そのアーマーひっぺがしてから反省させてやるよ!」





 AI使いのことだ。

 細工がいくつかされているはず。





 それでも正攻法せいこうほういどむしかない。

 つまりこちらは丸腰まるごしなのだ。





 次は端末たんまつを壊すなんて生ぬるい手は使えない。





 畔打あぜうち徹底てっていしてムエタイ技を応用し、顔の方へとパルクールを使ってAI使いへと飛びつく。





「思ったよりも運動神経がいいみたいだな」





「現役高校生は時間がないんだ。 タイパじゃない。 こんなところで時間をかけるわけにはいかないんでな」





 さくっと頭部を弱点だと仮定してねらい打つ。

 良い子はまねしないでくれ。





 AI使いはいつの間にか姿をけし、アジトのみが残った。





 路半ろはんはばっちりカメラに撮っていたらしい。





「あとで動画確認するか?」





「今はやめておく。 ビビってるわけじゃない。 簡単に逃げれるくらいには向こうが余裕があったんだろ」





 いまや心霊現象しんれいげんしょうもAI技術で逃げるのにも使えるのか。





「おそらくしばらくは興行こうぎょうにも出ない可能性が高い。稼ぎが安定しているのかもな 」





「取り逃したままか。 なんだかに落ちないな」





 取り残されたアジトで畔打あぜうち路半ろはんにあやまった。





「あまり他人に興味なくてごめん。 長い間、お前にもあやまってなかった。 出ていった理由のひとつがそれなら」





 路半ろはんは首をかしげていた。





「なんのことか分からないけど今に始まったことじゃないしいいよ。 それよりも今回畔打あぜうちいて助かった。 またつくられているのか本当か分からない心霊現象追いかけようぜ」





 ふう。

 いそがしいんだけどなあ。





 空いたスケジュールについて路半ろはんと話し合うことで今回は解決した。





 それでも謎はまだ残る。

 おそらく関わる以上は長く付き合うことになるだろう。




〈了〉

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