第30話 フォリンタ森で薬草採取
翌日の朝食後に、俺とレネは拠点からランダーを横切るように西へと進み、フォリンタ森へと向かった。依頼の薬草は体力回復ポーションの素材に使われる。
今は拠点を出たばかりで、この辺りの魔物は俺たちの強さを知っているのか、遠くから見ているだけで近寄ってこない。これから先は普通に魔物が襲ってくるから、槍を片手にいつでも退治できるように移動する。
「薬草採取は俺よりもレネが得意そうだから、任せて大丈夫だろうか」
「もちろん平気ですわ。植物スキルを駆使すれば、時間をかけずにヒーリラ草とヒーリリル草が見つかるはずです。拠点で育てる分も採取したいです」
植物関連の依頼だからか、いつもよりもレネの声が弾んでいた。巻き込まれてこの世界へ召喚されたが、神様であるレネにとってもスキルは珍しいらしくて、興味を示してくれるのが俺もうれしかった。
「レネの好きなだけ拠点で植物を育ててほしい。それにポーション関連の薬草なら有効に活用できると思うし、常時募集の依頼があるくらいだから売れるはずだ。もちろん依頼の薬草以外も育ててほしい」
「食材やめずらしい植物があれば、一緒に育ててみますわ」
話しながら片手間に魔物を倒しながら進んだ。中位魔物を簡単に倒すのは異常にみえると思うが、周囲に誰もいないので気にせず倒していく。ミスリルで作った槍と短剣の出来がよかったのも倒す速度に拍車をかけていた。
ランダーの中央にある渓谷を渡って西側にある丘を上りながら、その先にあるフォリンタ森へ向かっているとレネが足を止めた。
「めずらしい魔物でもいたのか」
「丘のふもとに家らしき建物がみえたので、何かと思って立ち止まりました。何名かの人影もみえたので、生活をしていると思いますわ」
レネが場所を教えてくれて、目を凝らすと確かに家と人影がみえた。丘の中腹からだから発見できたが、ふつうに荒野を歩いていたのなら丘が邪魔してみえない。盗賊が隠れるのにはちょうどよさそうな場所だった。
「たしかに誰かが住んでいそうだ。もし盗賊ならルーペンや旅人に被害が出るかもしれないから、見つからない距離からどのような者たちか確認したい」
「私たちには時間がありますから問題ないですわ」
俺とレネは相手から見つからないように、丘の中腹を移動しながら目的の建物へ近づいていった。
建物の裏側にある丘のくぼみから顔だけを出して、どのような者たちなのかを確認した。女性や子供の姿がみられたが強制的に働かされている雰囲気ではないから、盗賊とは別の集団に感じた。ほかの人物を確認していると知っている顔があった。
『初めて荒野へ来たときに出会ったミュランの姿がある。明らかにこの場所は隠れ家だから、クリニエル王国から逃げているのかもしれない』
クリニエル王国の言葉に、異様な反応を示したのを思い出した。
『可能性は大きいと思いますわ。それでキュウヤは彼らをどうするつもりですか』
『逃げている理由は不明だが、実際に会った感じでは悪い人物には思えなかった。俺たちがいる拠点の場所は知っているはずだが、いまのところ襲ってくる気配もないから、このまま俺たちの邪魔をしなければ放置で構わないと思う』
俺とレネならここにいる者たちを倒すのは可能と思うが、わざわざ面倒を起こす必要はないと思っている。
『私もその意見に賛成ですわ』
『レネも同じなら、ここに用事はないからフォリンタ森へ向かって移動しよう』
俺とレネは彼らに見つからないようにこの場所から去って、フォリンタ森の入口まで移動した。間近に見る森は先ほどまでの荒野と異なって、前方には育った木々や植物が生い茂っていた。
「森の中は魔物や動物に気づくのが遅れるから近場で薬草を探すか、それとも豊富にあると思われる森の奥へ入ってみるか。今回は植物が関連しているし、レネの好きなほうで薬草を採取したい」
「いろいろな薬草を探したいですから、森の奥へ行きたいですわ」
魔物についてとくに何も言わないのは、俺とレネなら襲われても平気と考えているようだ。ただレネには薬草採取に専念してもらいたいから、俺が周囲の魔物を警戒すれば問題ないだろう。
「それなら森の奥へ進もう。俺には薬草の違いがよく分からないから、採取はレネに任せてかまわないか。俺は周囲の魔物や動物を相手にする」
「分かりましたわ。私が先頭で進んで、薬草を見つけながら採取します。周囲はキュウヤにお願いしますわ」
役割分担が決まって、レネを先頭に森の奥へ入っていく。途中で爪の大きいネズミの魔物や、葉っぱのような体毛を飛ばしてくるオオカミの魔物に遭遇したが、俺の槍の前には敵ではなかった。
少し開けた日が差し込む場所でレネが足を止めて、辺りを見渡している。レネの視線が森の中から俺へと向けられた。
「植物スキルの鑑定で調べましたが、この辺りに薬草がありますわ。ヒーリラ草とヒーリリル草のほかにも、マインラ草やリカバラ草もあります」
少し興奮気味にレネが話す。スキルに興味をもっていたし、実際に多くの鑑定ができたのがうれしいのだろう。
俺も鉱物スキルを使うのは楽しいから、レネの気持ちがよく分かる。とくに鉱物加工では金型では作れない形状を簡単に加工できるので、工学系技術者としての血が騒いでしまう。鉱物合成も異世界らしい効果がつくのも面白い。
「俺には雑草しか見えないが、実際には薬草があるのか。俺では薬草の見分けがつかないから、薬草採取はレネにお願いしたい。周囲の魔物は俺が対応するから、レネは心置きなく薬草をみつけてほしい」
「分かりましたわ。良質の薬草もありますから、よさそうな薬草を採取します」
レネが歩き出すのを見送ってから、周囲を警戒するために俺も動く。レネが腰をかがめて薬草を採取するのを横目で見ながら周囲にも視線を向ける。木の上やこちらを伺うようにする小動物は無視して、敵意のある魔物と動物のみを探す。
オオカミの魔物が2度ほど近づいてきたが、問題なく倒して魔石を回収した。1時間くらい経過しただろうか、レネが俺の元へ歩いてきた。
「薬草採取が終わりましたわ。依頼用のヒーリラ草とヒーリリル草は充分の量が採れましたし、拠点へ植える分も数がそろいました。マインラ草やリカバラ草も一緒に採取できたので、育てるのが楽しみですわ」
好きなだけ採取できたのか、満足げにレネが話しかけてくる。
「お疲れ様。無事に依頼が達成できそうでよかった。薬草はレネの植物収納があれば時間経過しないから、冒険者ギルドへは寄らずに拠点へ戻って薬草を植えよう」
ふつうなら冒険者ギルドへ行って薬草を届けるが、レネの植物スキルなら劣化の心配がないからあとで届けても構わない。いまはレネが楽しみにしている、拠点での植物育成を優先させたかった。
「うれしいですわ。帰りの魔物退治は私が担当します」
レネと一緒に来た道を戻っていく。
しばらく森の中を歩くと、前方から動物か魔物が動き回る音と、威嚇にも似たうなり声が聞こえてきた。通り道のため俺はレネに視線を送ってから、そのまま音の方向へと進んでいく。
音の発生源が目の前に現れると、オオカミの魔物が5匹と、相対するように銀色の子犬が威嚇の声を上げていた。子犬は血が流れるほどに怪我をしていて劣勢は明らかだが、鋭い目でオオカミの魔物を睨みつけている。
「子犬からはわずかに神力を感じますわ」
レネから耳を疑うような発言があった。
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