5_幻獣フェンリルの子供

第28話 薬草採取の依頼

 商工ギルドでアイテムバッグを購入してから数日後、俺とレネは冒険者ギルドへ来ていた。朝の時間帯が過ぎているためか冒険者自体の数は少なくて、掲示板に張られている依頼内容をゆっくり見ることができた。


「レネはどのような依頼内容を受けてみたい?」

「基本はキュウヤに任せますが、この街へ来たばかりです。分かりやすい依頼内容がよいと思います」

 この街と言っているが、この世界とも言い換えられる。この世界の常識や冒険者の常識が色濃い依頼はむずかしいだろう。


「それなら採取か討伐の依頼がよさそうだ。対象の植物や魔物の場所が分かれば、俺たちなら問題ないはずだ。こちらに来てから魔物討伐が多かったから、依頼は採取系にしたいと思う」


「植物の採取なら、私のスキルも使えそうで面白そうですわ」

 掲示板に貼られている依頼のうち、俺たちのランクで可能な採取系の依頼をいくつか取ってから、横にある受付へ向かう。最初に来たときに対応してくれたラビット族のイリスさんがいたので、その窓口へ移動した。


「キュウヤさん、レネさん、こんにちは。今日はどのような用事でしょうか」

「採取系の依頼を受けたいと思うのだが、おすすめがあれば教えてほしい。土地勘がないから、ルーペン近郊で採取できる依頼はあるだろうか」

 手持ちの依頼の紙をカウンターの上へ置く。まだラビット族にはめずらしさを覚えているが、初めて会ったときを思いだして凝視しないように注意した。


「採取系の依頼を受けてくれるのですね。なかなか受ける冒険者が少ないので助かります。中身を確認しますので、少しお待ちください」

 イリスさんはカウンターにある依頼の紙を手元へもっていき、中身を確認する。手際よく依頼の紙を左右に分けて、1枚だけ俺とレネの前に見せてくれた。


「常時募集されている、ヒーリラ草とヒーリリル草の採取依頼がおすすめです。両方ともフォリンタ森にあって、森の少し奥へ行くと中位魔物は存在しますが、キュウヤさんとレネさんなら大丈夫でしょう」

 俺たちの実力を考慮して選んでくれたようだ。中位魔物と遭遇しても問題ない冒険者が推奨されるのなら、競争率は低めで採取もしやすいかもしれない。


「その採取依頼を受けてみたいが、対象となる草と森の場所をもう少しくわしく教えてもらえないだろうか」


「ヒーリラ草とヒーリリル草の用途も知りたいですわ」

 ふだんは会話を俺に任せるレネが、めずらしく会話に混ざってきた。植物関連の話題だからか、くわしく知りたいのかもしれない。レネは植物スキルに興味をもっているから、今後は採取系の依頼も適度に受けてみよう。


「薬草としても使われますが、ヒーリラ草は下級の体力回復ポーションの素材で、稀少性の高いヒーリリル草は中級の素材となります。下級はゴールドランクまでの主要ポーションで、中級は一番上のランクまで使えるほどに効果が高いです」


「実物を見るのが楽しみですわ」

 うれしそうにレネが答えた。採取した薬草を拠点で育てれば、レネも喜ぶかもしれない。数が多く採れれば提案してみたいが、いまは依頼内容の確認が優先だ。


「俺もどのような薬草なのかと、ポーションにも興味がある。薬草だが、見た目や取り扱いの注意などが分かる資料はあるだろうか」

「常時募集なので簡単な図や特徴、注意事項などの資料があります」

 イリスさんが近くから取り出した紙を渡してくれた。


 俺とレネで一緒に中身を確認する。スケッチ画のような絵で、ポイントとなる部分にはコメントがあって、類似の薬草との違いも書かれていた。採取方法は根からきれいに採れれば問題ないようで、鮮度も重要なようだ。


『レネの植物鑑定と植物収納があれば、効率的に依頼ができそうだ』

 渡された紙を見ながら、レネに念話を送る。

『スキルを使うのが楽しみですわ。余分に採れた薬草や有効そうな薬草は、拠点で植えても構わないかしら』


『もちろん歓迎だ。拠点の土地は充分に空いているから好きなだけ使ってほしい』

 俺がレネに提案しようと思っていたが、レネから要望をしてくれたのでうれしかった。レネにもこの世界を楽しんでもらいたいと思う。


『植える場所はあとで相談します。育て方を農業ギルドで聞いてから薬草を植えたいので、それまでは植物収納で保管しておきますわ』

 レネとの念話を終えて、視線を紙面からイリスさんへ向けた。


「分かりやすい資料をありがとう」

「有料でも構いませんので、植物図鑑はあるかしら。今後の採取依頼も考えて、勉強しておきたいですわ」

 レネがイリスさんに紙を返しながら聞いた。


「いまお見せした紙と同様な形で、ポーション全般の薬草ならあります。残念ながら植物全般の図鑑はありません」

「薬草のみ図鑑で構いませんので売ってください」

 イリスさんは頷いてから薬草図鑑を取りに行って、1冊にまとめた紙の束をレネに渡した。レネは中身を確認するとうれしそうに微笑んでから、紙の束を俺に渡す。


 中身をみると魔力回復ポーションで使うマインラ草や、怪我回復ポーションで使うリカバラ草などが載っていた。紙の束をレネに戻して視線をイリスさんへ戻した。


「薬草は分かったので、森についてくわしく教えてほしい。フォリンタ森はルーペンからみて、どの辺りにあるのだろうか」

 薬草の見た目と採取方法が分かったので、あとは薬草が採れる場所が分かれば依頼を受けられる。採取はレネの植物スキルがあれば、簡単にできると思っている。


「ルーペンの南西方向でランダーの西側にあります。南門を出て西に延びる街道を進むのが安全ですが、街道から近い場所は採取されているので数が少ないです。森の奥に入るか、ランダーの渓谷手前から西側に行けば豊富にあると思います」

 豊富にある場所は当然ながら中位魔物が出るとのことだった。渓谷手前から西側の位置にあるのなら、俺たちの拠点から西に移動すればよさそうにも思った。


「中位魔物なら平気だと思うから、ランダーへ出てから西側に向かってみる」

「キュウヤさんが言うと中位魔物は弱く感じますが、本当は強い魔物なのでくれぐれも気をつけてください。幻獣フェンリルがいる森ですので、念のためにポーションをもっていくのがよいです」


「採取中は周囲が疎かになりやすいから、注意しながら依頼を進めたい。ポーションはもっていないので買いたいが、冒険者ギルドで売っているのだろうか」


 いくら神力があっても無敵とは考えにくいから、安全すぎると思われるくらい準備をしておきたい。実際の製造業では予算の都合もあるが、それでも人命に関わる部分には力を入れていた。今回はポーションが人命に該当すると思っている。


「冒険者ギルドではポーションは売っていませんので、買う場合は商工ギルドが品揃えがよいのでおすすめです」

「このあと商工ギルドで買ってみるので、この依頼を俺とレネで受けたい」

「分かりました。依頼の受付を処理しますので少しお待ちください」

 俺とレネはヒーリラ草とヒーリリル草の採取依頼を受けた。


 レネが薬草図鑑の支払いを済ませてから、俺たちは冒険者ギルドを出ると商工ギルドへ向かった。商工ギルドでは受付のクリーネさんからポーションの種類を聞いてから、必要な分を購入した。


 ポーションの種類は体力回復、魔力回復、怪我回復、状態回復があった。それぞれに下級、中級、上級があって、回復量や効果範囲が異なっていた。とうぜんながら下級にくらべて上級は回復量が多く、状態異常を回復する種類も増えていた。


 俺とレネはすべてのポーションを各1本ずつ、合計12本ずつ購入した。上級ポーションはどれも高価なのでクリーネさんにはおどろかれたが、魔石で稼いだお金があったので問題なく購入できた。

 受け取ったポーションをアイテムバッグへしまって、商工ギルドをあとにする。


「もうすぐお昼だから、街で昼食をとりたいと思う。そのあとは服を買いたいと思うが、レネもそれで構わないか」

 鉱物スキルで武器は作っていたが、服はそのままだった。俺とレネは神力があるから、いかにも冒険者と言うよりも旅人が着るような服装でよいかもしれない。


「問題ありません。どちらのお店もキュウヤに任せますわ」

「昼食は宿屋と兼任している店なら味に外れはないと思うから、道を歩きながら見つけて、よさそうなら店なら入ってみる」


 北門近くにある商工ギルドから南門へと向かいながら、宿屋と一緒になっている店を見つけて中へ入った。

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