第27話 商工ギルドへ

 イリスさんから商工ギルドの場所を聞いて、俺はレネと一緒に商工ギルドへ向かった。商工ギルドはルーペンの北西で北門付近にあるらしい。同じく北西には農業ギルドもあって、こちらは東西の道沿いにあると聞いた。

 商工ギルドは大通りに面した位置にあり、冒険者ギルドと同じ2階建てだがおしゃれな外観だった。


「商工ギルドでは宝石を売ってアイテムバッグを買いたいが、レネも何か買いたい物はあるのか。お金には余裕があるから、たいていの物は買えると思う」

 商工ギルドへ入る前にレネへ聞く。節約も大事だが、盗賊団の報酬で1日では使えきれないほどの金貨を入手できたので、できるだけレネには不便をかけたくない。


「今のところはありませんわ。植物スキルをもう少し確認したら植物がほしいのですが、そちらは農業ギルドになるかしら」

「わかった。いつでも農業ギルドへ行けるから、必要なときは言ってほしい」

 レネに答えてから、商工ギルドの扉を開けた。


 手前が開けていて奥のほうに窓口がある配置で、周囲には身なりのよい人がせわしなく動いていた。まるで東京のビジネス街が思わせる雰囲気で冒険者ギルドとは異なるが、周りを気にせずに奥の窓口へと向かった。


 空いている窓口にならんで、10分後くらいに順番が回ってきた。

「商工ギルドの受付になりますが、本日はどのようなご用件でしょうか」

 窓口の奥から女性が声をかけてきた。座っているからくわしくは分からないが、背の高い30代くらいの女性で、黒髪のショートと知的な顔つきが印象的だった。


「自分で加工した宝石を売りたいのと、アイテムバッグをふたつ購入したい」

「宝石の買い取りとアイテムバッグの販売は可能ですが、宝石で商売する場合は商工ギルドへの登録を推奨します」

 俺の質問に受付の女性が笑顔で答えてくれた。


「趣味で鉱物を見つけて自分で宝石に加工しているが、店や行商で商売するつもりはない。趣味で作った宝石を買い取りしてもらいたいだけだが、その場合は商工ギルドへ入会しなくても平気だろうか。すでに冒険者ギルドへは入会している」


 いまのところ、複数のギルドへ入会するメリットを感じないし、宝石も鉱物スキルの確認やエクレスクへ渡すのがメインで、金儲けの道具には考えていない。お金には余裕をもたせたいが、魔石を売れば充分に確保できると考えている。


「冒険者をしながら趣味で宝石加工ですか。それなら商工ギルドへ入会しなくても大丈夫です。ただ誤解を招く恐れもありますので、宝石を売る場合は商工ギルドで売ってもらえると安心かもしれません」

 あとあとを考えると、宝石を売る場合は商工ギルドのみがよさそうだ。


「不定期になるが宝石を作ったら商工ギルドへ売りに来たいと思う。いまは少しだけ宝石があるのだが買い取ってもらえるだろうか」

「大丈夫です。宝石をみせて頂けませんか」


 手元にあるルビーとサファイア、スピネルとトルマリンをそれぞれひとつずつ取り出して、受付の窓口に置く。取り出した宝石はルビーとサファイアが3カラット前後で、スピネルとトルマリンは1カラット前後だった。

 手持ちの各宝石で真ん中くらいの価値があると思っている。


「この4種類の宝石を売りたい」

 拝見しますと言って、受付の女性が宝石を手に取る。最初はルビーを光にかざすように、目の前にもっていって天井へ向ける。さらに親指と人差し指でルビーを回転させるように全体を確認していた。

 残りの宝石も同様に確認が終わると、ていねいに宝石を拭き取って俺に戻す。


「商談エリアで価格を含めた話し合いをしたいと思いますので、こちらへどうぞ」

 受付の女性が中側からこちら側へ出てきて、俺とレネを案内してくれた。パーティションで分かれた個室が複数あるエリアで、そのひとつに入って席を勧められる。

 俺とレネが椅子に座ると、受付の女性は鑑定士を呼んでくると言って商談エリアから移動した。


 しばらくすると受付の女性が小柄な体格のよい男性を連れてきた。男性は人間の少年くらいの身長だが、ひげを生やした顔つきは40代くらいの大人だった。俺とレネの対面に受付の女性と男性が座った。


「自己紹介が遅れましたが、私は受付のクリーネで、こちらの男性が鑑定士のコスタンです」

「俺がコスタンだ。装飾品鑑定スキルをもっているから、宝石の善し悪しや偽物なのかを判断できる」


「俺がキュウヤで横の女性がレネだ。宝石を売りたくて商工ギルドへ来た」

 クリーネさんへの説明内容を話すと、コスタンさんがうなずいてから口を開く。


「宝石鑑定の前に、俺をじっと見ていたがドワーフ族を見るのは初めてなのか」

「田舎の村から出てきて、ヒューマン族以外はほとんど知らなかった」

「それなら仕方ないか。それで俺に鑑定してほしい宝石はどれだ」


 クリーネさんにみせたルビーとサファイア、スピネルとトルマリンをテーブルの上に置くと、コスタンさんが手にとってひとつひとつ調べ始めた。手のひらに乗せて何か呟いているのは、きっとスキルを発動させているのだろう。

 数分後にすべての宝石で鑑定がおわった。


「確認したがすばらしい宝石だ。すべての宝石が高品質で稀少性も高い。とくにカットがすばらしく、貴族に売っても恥ずかしくないレベルだ。これほどの状態がよい宝石は久しぶりだが、どこの産地か分かれば教えてくれないか」


「どの宝石もバルカノ山から産出した原石を使っている」

 その言葉にコスタンさんは驚いたようで、俺の顔をじっとみていた。


「神獣ドラゴンがいて、強い中位魔物がいる山で採掘ができたのか。今まで試した者はいたが採掘はできなくて断念している」

「俺とレネなら中位魔物は倒せるから、採掘も問題なく行えた」

 本当は神獣ドラゴンのエクレスクに掘ってもらったが、正直に話す必要はない。かりに話したとしても信じてもらえないだろう。


「もしかして、キュウヤさんとレネさんはビンナン盗賊団を捕まえた方ですか」

 クリーネさんが話しかけてきた。

「その通りだが、何故知っている?」


「ビンナン盗賊団には私たち商工ギルドも困っていて、捕まえたのが若い男女ふたりという噂を耳にしました。中位魔物を倒せる実力があるのなら、もしやと思って聞いてみました」


「そうか、俺たちで間違いないが、あまり目立ちたくないから喋らないでほしい」

 南門で見かけた者もいるから秘密にはできないと思うが、それでも意図的に広めるつもりはなかった。


「分かりました。それでは宝石の買い取り価格に進みます」

 クリーネさんとコスタンさんが小声で相談したあとに、価格が決まったようでこちらに顔を向けた。


「合計で450万ミネラでは如何でしょうか。詳細はルビーが200万ミネラ、サファイアが100万ミネラ、スピネルが50万ミネラ、トルマリンが100万で取り引きしたいと思います」


 異世界の宝石が元の世界と同様なら、どの宝石も高品質の価格帯に思えた。手持ちの中で真ん中くらいの宝石を出したつもりだったので、最高品質の宝石はむやみに出さないほうがよさそうだ。


「その価格で大丈夫だ。それでアイテムバッグをふたつ買いたいが、いくらくらいするのだろうか。お金が足りなければ、冒険者ギルドへ預けてあるお金から支払う」


「容量が1番少ないアイテムバッグで、ひとつ100万ミネラです。中くらいの容量では1000万ミネラになります。最小では元の10倍、中くらいでは元の50倍の体積までしまえます」


 今回は鉱物収納を誤魔化すために使いたいから、1番小さい容量でも問題なさそうだ。予算的には中くらいはむずかしいと思う。

「1番容量の少ないアイテムバッグをふたつ購入したい。残金は冒険者ギルドへ振り込んでもらえないだろうか」


「ひとつは私が支払いますわ」

 横にいるレネだった。自分の分は自分で買うつもりだろうけれど、今回は俺からプレゼントしたかった。


「初めて宝石が売れたから俺からプレゼントしたいが、駄目だろうか」

 少しだけ考えた素振りをみせたあとにレネが口を開く。

「分かりました。ありがたくもらいますわ」


 話がまとまったところで、クリーネさんがアイテムバッグをもってきた。茶色の革で作られているショルダーバッグくらいの大きさで、体積で決まるので口に入る品物なら長くても構わないらしい。


 差額の250万ミネラは冒険者ギルドへ振り込んでもらって、俺とレネは商工ギルドをあとにする。街中で買い物をしたあとに、夕方前には拠点へ戻ってきた。

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