第26話 捕まえた盗賊団
翌日、レネと一緒にルーペンの街へ向かった。目的のひとつは冒険者ギルドで、この前捕まえた盗賊団について聞くことだった。もうひとつは商工ギルドで、宝石を売ってアイテムバッグを購入したいと考えている。
街の南門へ到着すると、ギルド証をみせてから犯罪者認識板に手をかざす。前回と異なってスムーズに街中へ入れた。
「最初は冒険者ギルドへ行ってみる」
南門から北東方向、街としては南東に位置する冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドへ到着して扉を開けて中へ入って、奥にあるカウンターへ進むとイリスさんの姿が見えた。イリスさんと視線があうとカウンターから出てきた。
「キュウヤさん、レネさん、お待ちしていました。ギルドマスターから、おふたりが来たら案内してほしいと言われたのですが、今からお時間はありますか」
「用事はないし、ビンナン盗賊団の件で来たのだが、それのことだろうか」
「その件だと思います。それでは奥の部屋へ案内します」
イリスさんに案内されてレネと一緒に移動して、冒険者ギルドの2階にある部屋へ通された。部屋の中に入るとギルドマスターのオルソンさんが椅子に座って書類をめくっていた。部屋の中に派手さはないけれど、実務向きの落ち着き感があった。
「ふたりともよく来てくれた。そちらのソファーへ座ってくれ」
部屋の中央には向かい合ったソファーがあって、その片側を勧められた。少し遅れて、書類を手にもったオルソンさんが目の前に座った。
「訓練場で知ったと思うが、自分が冒険者ギルドのギルドマスターでオルソンだ。お前たちがキュウヤとレネで間違いないか」
「その通りです。俺がキュウヤでとなりの女性がレネです。俺たちにどのような用事があるのでしょうか」
盗賊団の話しだとは思うが念のために聞いてみた。
「かしこまった話し方はしなくて平気だ。普段通りの話し方で構わない。わざわざ呼んだのはビンナン盗賊団についてだ」
一呼吸おいてから、オルソンさんが続きを話す。
「ビンナン盗賊団が捕まったと聞いたときには喜んだが、捕まえたのが冒険者に成り立てのふたりと知ったときにはおどろいた。疾風の牙との試合を見ていなければ、裏があるのかと思ったほどだ。それでお前たちふたりで捕まえたのか」
普通に考えれば、街の自衛団や冒険者ギルドでも手を焼いていた盗賊団を、高校生くらいのふたりが捕まえたとなれば疑うだろう。
「捕まえたのは俺とレネで間違いない。本人たちに聞けば分かると思う」
「確認のために聞いただけだ。すでに盗賊団の発言は確認してある」
あっさりと俺の発言を認めてくれた。俺たちの試合をみていたからか、客観的に判断ができるのかは不明だが、言い争いにならなくてよかった。
「それは助かった。俺たちが住んでいる拠点を襲われたから捕まえたが、このあとはどうすればよいか教えてほしい」
「まずはビンナン盗賊団のリーダーたちを捕まえた報酬を渡す。それとふたりともシルバーランクへランクアップだ」
報酬がもらえるのはうれしいが、ランクアップするとは思っていなかった。つい先日に冒険者ギルドへ登録したばかりで、何の仕事もしていなかった。
「まだ依頼を受けていないが、ランクアップは可能なのだろうか」
「盗賊団退治の結果を見れば、カッパーランクにしておくのが逆に問題だ。優秀な冒険者は歓迎だが、それに見合うランクが必要になる。はやくゴールドランク以上になるよう依頼を受けてくれ」
お願いするような目で訴えかけられた。それほどまでに俺とレネの力が飛び抜けているのだろう。悪目立ちをするつもりはないが、下手に絡まれないように一人前であるゴールドランクになっていたほうがよさそうだ。
「なるべく依頼を受けて数をこなしていく」
「そうしてもらえると助かる。報酬とランクは、書類をイリスへ渡せば処理してくれる。もうひとつ、ビンナン盗賊団の残党刈りを冒険者ギルドで対応するが参加はどうする? 今いる冒険者でも充分に対応できるから、むりしなくて平気だ」
「さすがに疲れたから、不参加でお願いしたい」
本当は疲れてはいないが、わざわざ行く必要もないと判断した。
「わかった。ビンナン盗賊団にはルーペン自体で困っていたから、ふたりの活躍には感謝を仕切れない」
オルソンさんは立ち上がって、その場で頭を下げた。ギルドマスターという立場を考えれば、新人ギルドメンバーに頭を上げるのは勇気のいる行為のはずだ。そこまで俺とレネに感謝してくれるとは、すなおにうれしかった。
「頭を上げてほしい。俺たちは住んでいる拠点を守っただけで、たまたま相手がビンナン盗賊団だっただけだ。俺たちは初心者の冒険者だから、この街や冒険者の基礎を教えてくれると助かる」
俺の言葉を聞いて、オルソンさんが頭を上げてくれた。
「不明点があればイリスや自分に聞いてほしい。今後のキュウヤとレネの活躍を期待している」
オルソンさんが手を差し出してきたので、俺とレネは立ち上がってオルソンさんと握手を交わした。オルソンさんから書類を受け取ると、部屋をあとにした。
受付に戻ってイリスさんへ書類を渡す。
「先行で話は聞いています。報酬ですが金貨50枚なので、冒険者ギルドへ預けておくのをおすすめします」
報酬以降の言葉は小声だった。金貨50枚は500万円くらいだから、ほかに聞かれないように配慮してくれたようだ。
「持ち歩きたくないから、すべての金額を預けたい。ところでギルドで預けたミネラを、ほかのギルドから引き出すのは可能だろうか」
「冒険者ギルド間ならどの街からでも無料で可能です。ほかの商工ギルドや農業ギルドからは、小銀貨1枚くらいの手数料で可能ですよ」
「ありがとう。ほかのギルドで買い物をするときにも使えるので助かる」
報酬の処理を済ませて、もっていたギルド証のプレートを渡すと、あらたにシルバー色のプレートを渡された。中身の情報は魔道具で引き継いでいた。
「おめでとうございます。これでキュウヤさんとレネさんはシルバーランクです。この街の冒険者ギルドでは最短日数で、おどろき以外に言葉がないですよ。ただその奇跡の瞬間に立ち会えて、わたしはうれしいです」
周囲からもおどろきの声が上がって、しばらくの間は質問攻めにあった。落ち着いてから、次に向かいたい商工ギルドの場所をイリスさんへ聞く。
分かりやすい道順を教えてもらってから、冒険者ギルドをあとにして商工ギルドへ向かった。
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