第25話 完成した武器と宝石

 レネに作った短剣は簡単に石を割ることができた。想像以上にミスリルは武器との相性がよさそうだった。


「あの威力があれば上位魔物とも渡り合えると思うぞ」

「使い勝手はレネに聞かないと分からないが、能力的には問題なさそうだ。次は俺の槍を作ってみる」


「どのような槍を作るつもりだ?」

「レネが両刃の種類を変えたように、俺は槍の種類を増やして攻撃に幅を持たせるつもりだ。具体的には2メートルくらいの片手槍と丸盾の組み合わせと、4メートルと長い両手槍を考えている」


 片手槍は真っ直ぐに突く以外に切れる仕様も追加して、両手槍は穂先が十字の枝を思わせる形で両側の枝は短くしたい。


「出来上がりが楽しみだ」

「短剣同様な性能となるように頑張ってみる」

 基本は短剣と同じ作り方なので、先ほどまでよりも頭の中が明確になっていた。合成したミスリルのインゴットは充分にあるので、すべてを使っても余るはずだ。


 槍は短剣にくらべて大物相手に戦うから、刃を厚くして刃先のミスリル組織を硬くはするが、脆くなりすぎないように気をつけた。手元が滑らない工夫もして、衝撃による亀裂が入りにくいようにピン角にはRをつけて応力分散させた。


 2種類の槍を作ったあとに丸盾の加工を始める。大きさは50センチくらいで、表面には曲面をもたせる。中央部を厚く外周部へ向かって薄くして、持ち手は肘と手首の間にある前腕全体で支えられる構造にすると盾も完成した。


 槍も盾も工業製品ではないので、共振による破損を考えないのはうれしい。丸盾の表面が寂しかったので地球を描いた。


「鉱物収納」

 槍2本と盾を収納空間から取り出して、片手槍と丸盾を手にもって構える。


「槍が完成したのでしたら、実際に使う姿が見たいですわ」

 レネは短剣の確認が終わって戻ってきたようだ。

「槍も盾もすばらしい出来に見える。わしも動きを見てみたい」


 ふたりとも槍の性能を知りたいようなので、その場で片手槍を振り回す。レネが近くにある石を投げてくるので、槍で突いたり切ったりしながら、たまに盾ではじき返した。砕けた石をみて、俺をふくめた全員が満足のいく内容だった。


「次は両手槍を試してみたい」

「それなら、わしが大きな岩を作ろう」

 エクレスクがドラゴンの姿に戻って、爪で軽く地面と壁を削る。バケツに入るくらいの大きさから、ドラム缶でも入らない岩が周囲に散乱した。


 両手槍で周囲にある岩を魔物と思って斬りかかる。まるで包丁で野菜を切るかのように、簡単に刃が通って岩を砕いた。神力のおかげで両手槍でも問題なく振れて、意図したとおりに刃先が動いてくれる。


「炭素鋼にくらべてミスリルの力強さはすごい。俺自身の動きが武器に負けている感じはあるが、当分の間はこの武器で問題なさそうだ」


「キュウヤの動きも、さまになってきましたわ。私の短剣も充分に満足のいく出来でしたから、キュウヤのモノづくりは才能があると思います」

「わしも同感だ。次回の手合わせが楽しみだ」

 元女神のレネと神獣ドラゴンのエクレスクから褒められたのだから、俺が思っている以上に高い評価なのだろう。これを励みに拠点も強化していきたい。


「ふたりともありがとう。俺もここまですごい武器になるとは思わなかった。槍で岩を砕いたが、ミスリルも混ざっている鉱物だから持ち帰っても構わないか」

「まったく問題ないから、好きなだけ持ち帰ってくれ。住処が広くなって助かる」

 了解が得られたので、砕いた岩を収納空間へ移動させる。


「どの武器も見た目が美しくて鑑賞用にも使えますわ。とくに盾のデザインは心にくるものがあって地球かしら」

「地球とは何だ?」

 初めての言葉だったらしくて、エクレスクが聞いてきた。


「俺たちがいた故郷の名前で、俺たちがこの世界へ来る直前までいた」

「そうか、異世界から来たのだったか」

 エクレスクは俺たちに気を使ったのか、そこで口を閉じた。エクレスクが黙っていると、レネが口を開いた。


「鑑賞できる武器なら、ルビーとサファイア以外の宝石もきっとすてきに作れると思いますわ。キュウヤはこれから宝石を作らないのかしら」

 意図的なのか、レネが話題を変えてきた。不自然な流れだったが、異世界の状況を聞かれても困るので、このままレネの話題に乗った。


「拠点に戻ってから作ろうと思ったが、まだ時間はあるからこの場で作ってみる」

「楽しみですわ。どのような宝石を作るのかしら」

「スピネルとトルマリンを作ろうと思うから、完成まで少しまってほしい」


 頭の中で高品質のみを分類してから、スピネルから加工を始める。レッドスピネルはクロムや鉄の影響できれいな赤色を帯びているが、ルビーと同じ場所から採れていたので、昔はルビーと区別がなかったようだ。


 宝石の硬さを示すモース硬度は8と高くて色合いも豊富なので、楽しめる宝石のひとつだ。鋼玉と異なり、青色のスピネルはブルースピネルと呼ぶので、やはりサファイアのみが特別なのだろう。


 スピネルを作り終えるとトルマリンの加工に移る。モース硬度は7とスピネルに近い値を示して、電気石の和名が表すように電気を帯びる場合があるらしい。トルマリンも豊富な色があり、2色が連なっているバイカラートルマリンが有名だ。


 0.1カラット以下から1カラット以上の大きさまで、さまざまなスピネルとトルマリンの宝石を作った。ジュエリーに加工されていない宝石は裸石やルースと呼ばれて、ルースコレクターも多かった。


「鉱物収納」

 完成した宝石を取り出して地面へ置く。スピネルとトルマリンを各20個以上は作って、バイカラートルマリンの色違いもいくつか作ることができた。


「どの宝石もきれいですわ。充分に商売できる品質があります」

「みごとな宝石だ。いくつかもらっても構わないか」

「たくさんの鉱物をもらったお礼だから、好きなだけ持っていってほしい」

「遠慮なく選ばせてもらう」

 エクレスクが数個の宝石を手に取って懐にしまった。


 神獣ドラゴンに出会って、武器や宝石作りの楽しい時間が過ぎた。エクレスクとまた会う約束を結んでから俺とレネは拠点へ戻って、明日の街へ行く準備をしてから眠りについた。

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