第23話 異世界の鉱物
「これがミスリルか。吸い込まれるような緑色だ」
鉱物鑑定でミスリルが見つかったので、鉱物収納で塊として収納したのちに、鉱物収納を再度使って手元へ取り出した。ミスリルは全体が緑色で光沢もあって、ジュエリーなどで使用されるグリーンゴールドよりも深みのある緑色だった。
「初めて見ますがすてきな色合いですわ。性能はどのような感じなのかしら」
レネが俺の手のひらにあるミスリルを覗き込む。
「高品質のミスリルで、どの程度の硬さかは実際に加工しないと分からない」
鑑定結果は鉱物の種類と良品か粗悪などの状態はわかるが、具体的な硬度や加工のしやすさなどはわからない。このあたりは実際に加工して試すしかなさそうだ。
「目の前で岩が消えたが収納系の魔法をもっているのか」
「スキルの技として鉱物を収納できる」
「便利な技だが触らずに収納できるのは特別だから、気をつけたほうがよいぞ」
特別の割には、エクレスクはおどろいていなかった。神獣ドラゴンと呼ばれるほどだから、長い年月を生きているのだろう。
「貴重な助言は助かる。異世界から来たばかりで常識をあまり知らない」
「ミスリルを知らなそうだが、異世界には存在しないのか」
ヒューマン族の姿のままでいるエクレスクが聞いてくる。
「俺たちのいた世界にはなかった。ミスリルはプラチナよりも珍しいと思うが、どのような鉱物なのか教えてほしい」
冒険者ギルドのランクで、ミスリルはプラチナの次なので聞いてみた。この世界の鉱物が元の世界と完全に同じだとは思わない。だがいまのところ知っている鉱物の性質や硬度は元の世界と同じだったで、プラチナなら対比しやすかった。
「アダマンタイトとオリハルコンの次に硬度があって、プラチナよりも稀少性が高い鉱物だ。高品質の一流武器や防具はミスリル以上で作られるが、ミスリル以上は加工がむずかしい。とくにアダマンタイトは量が採れずに加工の難易度も高い」
どうやら俺たちの知らないこの世界特有の鉱物が、性能的には上位を占めているようだ。この場所でミスリルが見つかったのは運がよかったのだろう。
「優秀な鉱物とわかった、ありがとう。今は鉄と炭素を使った武器だが、ミスリルの量がたくさん採れたら武器を作ってみたい」
「期待していますわ。ほかにも何か鉱物はありましたか」
初めて見るミスリルで心が躍って、ほかの鉱物を忘れていた。エクレスクに宝石を差し上げるのによさそうな鉱物があった。
「ミスリル以外では鋼玉、尖晶石、電気石、方解石が見つかった。鋼玉はコランダムで、有名な宝石であるルビーやサファイアが作れる。尖晶石はスピネルで電気石がトルマリンの和名だ。方解石は大理石や石灰石のほうがイメージは沸きやすい」
俺が鑑定結果を見るからか、和名で表示される鉱物が多かった。鉱物や宝石になれている俺なら平気だが、知らない者なら苦労しそうだ。
「いろいろな宝石が作れそうで楽しみですわ」
「4大宝石といわれるルビーとサファイアが見つかったから、エクレスクに渡す宝石は色とりどりの鋼玉で作りたいと思う」
「大きさよりも品質重視の宝石が好みだ。不純物のない宝石は見ていて飽きない」
エクレスクが要望を伝えてきた。宝石は天然の鉱物が元だから、どうしても完璧な状態で作ることはできない。どうしても小さいけれど高品質な宝石か、大きいが内包物とも呼ばれるインクリュージョンが多い宝石となってしまう。
品質をとるか大きさをとるかは好みの問題で、どちらがすぐれているという話しではない。当然ながら大きくて高品質な宝石もあるが、価格が1桁も2桁もかわる。エクレスクの好みは大きさよりも、品質重視だとわかった。
「内包物の少ない部分で宝石を作ってみるから、少しだけまってほしい」
「時間はあるから慌てなくて平気だ」
近場で見えている範囲の鋼玉を収納空間へ移動させた。充分な量が収納空間に収まったら、高品質の鋼玉と普通以下の鋼玉に頭の中で分類する。せっかくだから、このまま収納空間内で作れるか試してみたい。
収納した鋼玉の塊をイメージすると立体的に表示されて、表面状態を確認したいと思うと頭の中の映像が拡大した。どの部分で宝石を作るか検討するために、内包物を知りたいと思うと、CTスキャンに似た映像が浮かび上がった。
実物を見るよりも収納空間のほうが詳細を確認できるようで、宝石やモノづくりには便利な機能だった。
宝石は赤色のルビーと青色のサファイア、それ以外の色のファンシカラー・サファイアを作っていく。色違いで合計10個の宝石が完成できた。収納空間内で鉱物加工ができて、鉱物鑑定で品質を確認すると、どの宝石も高品質と表示された。
「宝石が完成したから、これから取り出す」
頭の中で鉱物収納と念じてから、10個のうち8個の宝石を手のひらへと取り出した。残りのふたつはルビーとサファイアで予備に取っておく。8個とも雰囲気と品質を確認してからエクレスクへ渡す。
俺自身が言うのも気が引けるが、すばらしい色合いだった。宝石はいろいろな産地で採れるが、同じ宝石名でも成り立ち方や若干の成分違いで色が変化する。
ピジョンブラッドと呼ばれるミャンマー産のルビーや、サファイアではカシミール産のコーンフラワーブルーが有名だ。この世界の宝石も産地で異なるのか確認したいが、少なくともバルカノ山の宝石は俺好みだった。
「宝石を楽しめるように色とカットの種類を変えてみた。ルビーとサファイアの宝石だが受け取ってほしい」
エクレスクの反応を見ると、獲物を捕らえたかのように宝石を見つめている。その瞳が俺に向けられて、おどろいた表情をみせた。
「これはすごい、輝きが見事だ。ひとつひとつの色合いも特徴的で、宝石によってカット方法を変えているとは面白い。不純物が少ないのもすごいが、このカットの素晴らしさが輝きをいっそう引き立てている」
スキルの利用だったが、初めて作った宝石をほめてもらえたのはうれしかった。
「きれいなカットで、赤と青以外に紫や黄色もあって華やかです」
レネも喜んでくれた。
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