第22話 巨大な神獣ドラゴン
神力で夜目は利くが洞窟の中は暗いため、念のために明かりの魔道具を使って奥へと進んだ。魔道具は魔石をエネルギーとして使う品物で、街中で売っているたいていの魔道具は、下位魔物の魔石を使っていた。
洞窟の大きさは幅も高さも2メートル以上あるので、レネとふたりで一緒に歩いても余裕で通れる大きさだが、この広さをドラゴンが通れるとは思えない。もしかしたら、この世界のドラゴンは小さいのかもしれない。
洞窟の中には魔物はおらず、岩だらけの壁面が奥へ続いている。鉱物鑑定を使いたいが、体へのチクチク感が増しているので奥のドラゴンへ意識を集中した。しばらくすると前方が少し明るくなってきた。
「もうすぐ見えますわ」
レネが普段通りの話し方で状況を教えてくれた。相手が神獣ドラゴンでも関係ないようで、そういえばこの世界の神様相手にも緊張している様子はなかった。
徐々に明るさが増して明かりの魔道具は不要となった。俺にも洞窟の奥がどの状態か分かって、少し進むとサッカー場が4面作れる広さのある空洞に到着する。空洞の中央には巨大な生物が横たわっていて、大きな瞳が俺たちを取られていた。
巨大な生物は高さが50メートル、翼を広げると100メートルはありそうだ。
「何者だ。わしの住処に堂々と入ってくる種族がいるとはおどろいた。わしを神獣ドラゴンと知って訪れたのか」
威圧感と腹に響く重みのある言葉で、回答を間違えると一撃を食らいそうだ。神力のある体だから簡単に倒されはしないが、それでもただでは済まなそうだ。
「もちろんですわ。神獣ドラゴンがいると聞いて、あいさつに来ただけです」
まだ俺には荷が重いと思ったのか、めずらしくレネから話しかけた。正直、神獣ドラゴンと交渉する度胸はまだ身についてなかったので助かった。
『俺よりレネが慣れていそうだから、このままレネに任せても大丈夫だろうか』
『平気ですわ。希望があれば伺います』
『話し合いが可能な相手なら、友好的な関係を結びたい』
『分かりました。任せてください』
レネの頼もしい返事が返ってきた。俺も神獣ドラゴン相手に堂々と渡り合えるくらいに、精神と体を鍛えていきたい。
「見た目はヒューマン族だが、ふたりからは神力が溢れ出ていて、どのような人族なのだ。わしを上回る神力が地上の生物でいるとは考えられない。神の使徒なのか」
「違いますわ。クリニエル王国で異世界から召喚された、少し特別なヒューマン族です。私たちは話し合いに来ただけで敵意はありません。もちろん、私たちに危害を加えるのでしたら容赦はしません」
レネの雰囲気が少し変わったと思うと、神獣ドラゴンが巨体を揺らしてうしろに後ずさりした。神獣ドラゴンの表情は読み取れないが、レネを凝視していた。
「召喚されたヒューマン族を知っているが、まったく神力を感じなかった。特別なふたりだと感じていたが、これほどまでとは思わなかった。わしに敵意はないし、話し合いをしたいのなら喜んで受けよう。もしかしてとなりの男も同様なのか」
「鍛え上げれば私に並びますわ」
うれしそうにレネが答えた。俺には分からないが、レネと神獣ドラゴンの間では会話が成立しているようだ。神獣ドラゴンも敵意はないと答えてくれたから、友好な関係が築けそうで助かった。
「話し合いがしたければいつでもするが、その前に手合わせを願いたい。これほどの神力を宿している者との戦いは今までにないから、心がおどってしまう」
神獣ドラゴンの周辺が一瞬ゆらいだと思うと巨体が姿を消した。かわりに50代くらいにみえるヒューマン族の男性が姿を見せていた。
「姿を変えられるとは、神獣はすべて可能なのかしら」
「神獣なら問題なくできる。幻獣は体の大きさを変えるのが限界だろう。それでわしとの手合わせをして頂けるかな。できれば拳だけで語り合いたい」
「もちろん、私がお相手をしますわ。少しだけ本気を見せますが、キュウヤは高みの戦いを肌で感じてください」
レネが俺へと視線を向ける。まるで俺に戦いの見本を見せる師匠に思える表情だった。俺がレネの横に並ぶのはまだ先となるが、少しでも俺を手助けしてくれる配慮がうれしかった。俺はレネに見つめ返して深くうなずいた。
レネと神獣ドラゴンが向き合うと、風が吹いたように感じた。一瞬でふたりの姿が消えたと錯覚するほどに動きが速くて、ふたりの距離が詰まった。神力で強化された俺の動体視力でも、ふたりの動きを追うだけで精一杯だった。
5分ほどの組み手だっただろうか。食い入るようにふたりの動きを見ながら、戦うときの意図を感じ取っていた。単調な攻撃ではなくて、フェイントを織り交ぜながらの動きで、俺なら最初のフェイントで倒されていただろう。
最後はどちらが話すわけでもなく、おのずと距離を取って手合わせが終了した。
「これからも手合わせを願いしたい。名乗っていなかったが、わしは神獣ドラゴンのエクレスクだ。これだけの神力がある者なら、わしと対等な立場だ。呼び捨てで問題ないし、話し方も普段通りで構わない」
「私はレネで彼はキュウヤですわ。私たちにも呼び捨てで構いません。そのうちキュウヤとの手合わせをお願いしたいです。きっとエクレスクも楽しめると思います」
「俺がキュウヤだ。荒野に拠点を作って住みだした。あいさつできればと思って今日は訪れた。協力関係が築ければうれしい」
レネが作ってくれた関係を崩さないように、だが堂々とした態度で答えた。
「これほど楽しい戦いは久しぶりだ。こちらからも協力関係をお願いする。わしは戦いと宝石に目がないから、拠点に訪れたときにも手合わせで楽しませてくれ」
宝石が好きとはよい情報を知った。この洞窟にはたくさんの鉱物があって、きっと宝石の原石もあるはずだ。鉱物や宝石好きの俺にとってこの機会を逃したくない。
「周辺の鉱物種類によっては宝石を作れる。俺は鉱物スキルを持っているから、周辺の鉱物を少しもらえれば、友好の証にエクレスクに宝石を差し上げたい」
「それは本当か。住処を広げるのに岩は余るほど出るから、好きなだけ持っていって構わない。そのかわりに宝石を作ったら、わしに譲ってくれ」
エクレスクが俺の元へ近づいてきた。品格ある雰囲気で、身なりを整えれば貴族と言われても納得するだろう。
「宝石を作るのに時間は掛からないから、まずは鉱物を鑑定させてほしい」
エクレスクがうなずいたのを確認してから、近くの壁まで向かって鉱物鑑定を始める。鑑定が終わると、興味深い鉱物名が頭の中に浮かんできた。
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