4_神獣ドラゴン

第21話 神力の気配

 翌日の朝食は少し豪華になった。レネの収納空間があるおかげで、植物関連の食材や水を大量に保管できたので、節約を気にすることなく料理を作れた。

 さきほど朝食を食べ終わって、テーブルを挟んでレネと今日の予定を考える。


「そのうち冒険者ギルドへは行く必要があるが、明日以降という話しだから今日はむりに街へ行く必要はないと思っている。レネは何かやりたいことはあるか」

「植物スキルを試すのも面白そうですが、キュウヤの鉱物スキルを何処まで出来るのかみてみたいですわ」


 スキルは元女神のレネでも珍しいらしくて、植物スキルを使えるようになってから興味を持っている。拠点の構築が落ち着いたら、レネに思う存分スキルを使ってもらいたい。俺のスキルで試すには、元となる鉱物が重要だろう。


「それなら鉱物を探したいと思っている。この周辺にもいくつか鉱物はあるが、宝石の原石などは地中や大陸が衝突した山付近に多い。鉱物スキルを持っているから、宝石やジュエリーも作れるようにしたい」


 もともと趣味で鉱物や宝石を集めていたので、今のスキルなら原石から宝石を作って、さらに地金も加工しながらジュエリーも作れる。元の世界では買うだけだった宝石やジュエリーが作れる楽しみは非常に興味をひいた。


「鉱物の種類を増やしたいのでしたら、バルカノ山へ向かうのはどうかしら。神獣ドラゴンがいるようですが、私たちなら問題ありませんわ」

 ゲームなら神獣やドラゴンは単独では勝てない相手だが、レネにとっては荒野にいる魔物と同じ感覚なのだろう。レネを女神にするためにも一緒に過ごしたいから、早めにレネの感覚になれる必要がありそうだ。


「登山気分でバルカノ山へ行ってみるか。山側の魔物は討伐していないから、今の武器や戦い方を見るのにはちょうどよさそうだ。荒野と異なる鉱物がどれくらい見つかるかも楽しみにしている。この世界独特の鉱物にもお目にかかりたい」


 冒険者ギルドのランクにあるミスリル、オリハルコン、アダマンタイトは上位ランクだから、鉱物としても優秀なはずだ。うまく入手できれば、俺とレネの武器や拠点の防衛も強化できる。


 レネの収納空間には植物の食材と水を入れられるので、神力で出来ている俺たちなら山頂へ行って戻るくらいの食事なら大丈夫だろう。野宿の可能性もあるので、街で買った火や明かりの魔道具も一緒にもっていく。


 食事の後片付けをしたのちに、バルカノ山へ向かって出発した。沼を越えて南北に延びる道を横切って、バルカノ山のふもとへ到着する。


「どのあたりに鉱物があるか分からないから、直線で山頂を目指したい」

「分かりましたわ。興味のある植物があれば寄り道しても平気かしら」

 どれだけ植物があるか分からないが、岩場だけではなくて植物のありそうな場所にも移動してみよう。


「時間は気にしていないから、気になるものがあれば確認しながら進もう」

 俺とレネは山頂へ向かって一緒に歩き出した。


 山を登り始めると最初は角が2本ある大きな兎の魔物が現れて、次には人の背丈はあるかと思うほどの巨大な猪の魔物が襲ってきた。前に聞いたロックボアーだと思われるが、俺とレネの前には敵ではなかった。

 収納空間を使った鉱物の出し入れは、障害物としても攻撃用としても便利で、まるで魔法を使っている感覚に陥った。


「ここまで問題なく魔物を倒しているが、このまま進んでも平気そうか」

「大丈夫ですわ。ただロックボアーは硬さがありましたから、もっと固い魔物がいるかもしれません。そのうち硬度の高い材料で武器を作るのがよさそうです」

「鉄に炭素を入れているからそれなりに固いが、ミスリルなどが見つかれば性能次第だが武器に挑戦してみたい」


 険しい山道にさしかかっても、俺とレネは普段と変わらない会話を続けながら、息切れをせずに登っていく。近場の岩に鉱物鑑定を行うと、沸石や雲母が新たに見つかった。利用用途は思いつかないが、便利な鉱物収納で収納空間に保存しておく。


 山の中腹まで登ったところで、レネは山頂よりも北側へ視線を向けた。

「何か見えるのか?」

 気になって聞いてみた。


「わずかながらですが神力を感じますわ。きっとあちらの方向に神獣ドラゴンでいると思います。せっかくですから見に行ってみますか」

 今までの俺なら神獣ドラゴンを避けようとしていたが、レネと一緒に同じ道を歩みたいから、ここはレネの希望に応えたかった。


「もちろん神獣ドラゴンの姿を見てみたい。俺にはまだ神力の気配を感じ取ることはできないから、案内してもらえるだろうか」

「キュウヤも神力になれてくれば気配を感じ取れますわ。私が先に進みますので着いてきてください」

「それは楽しみだ」


 レネの横に立ちながら、神獣ドラゴンがいると思われる方向へ進んでいく。途中には険しい崖があり、神力がなければ迂回を余儀なくされただろう。下から見上げると崖が連なって見える中腹に、大きな洞窟が口を開けてまっていた。


「この奥から先ほどよりも強い神力を感じますわ」

 レネの言葉に洞窟の中を凝視するが、奥まで続いているようで外からは何がいるのか分からなかった。それでも体に張り付くような静電気のような刺激があって、自然にできた洞窟とは思えない。


「神力かは分からないが、体にチクチクする刺激を感じる」

「それが神力ですわ。キュウヤは全身が神力ですから反応したと思います」

 神力同士は影響するのだろうか。ただふとした疑問がわいた。


「今までレネと一緒にいたが、そのときは何ともなかった」

「私とキュウヤは同じ神力ですから、今のキュウヤには分からないのでしょう。異なる性質の神力は、違いを判断しやすいかしら」


 神力にも性質があるのを初めて知った。きっとレネにはもっと詳細に神力の特徴を把握できるのかもしれない。俺ももっと神力に慣れていきたい。神力になれていない俺でも感じ取れる神力は、逆の考えでも成立するはずだ。


「俺にも神力を肌で感じ取れたとすると、きっと神獣ドラゴンも俺たちが来たとわかっただろう。どのような性格の神獣ドラゴンかは分からないが、なるべく話し合いで済ませられるようにしたい。ここからは俺が先に進む」

「先頭を任せますわ」

 俺とレネは洞窟の奥へ向かって歩き出した。

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