第20話 盗賊団を返り討ち

 俺とレネは夕方前に拠点へ着いたが、30名近い怪しい集団が拠点の入口前で陣取っていた。どうやら拠点の中をうかがっているようだ。


「入口付近の集団だが、どう考えても、まともな職業の者たちには思えない」

「ふつうの住民は、このような危険な場所には来ませんわ。雰囲気的に冒険者や正規な兵士には見えませんから、盗賊に違いありません」


「俺も同じ意見だ。今までにくらべて人数は多いが、俺たちなら倒せそうか。できれば殺さずに捕まえて、門番に突き出したい」

 拠点を渡すつもりはないし、この場所でじっとしているつもりもない。戦いにも慣れてきて戦闘自体は問題ないが、不安があるとすれば人を殺められるかだ。


「むやみに人を殺さない心掛けは感心しますわ。私たちならどのような攻撃を受けても盗賊たちに遅れは取りませんので、堂々と前から向き合って平気です」

「わかった。このまま拠点へ進んで声をかけてみる」

 盗賊たちだとは思うが、違う可能性もあるから奇襲をするつもりはない。俺は槍でレネは短剣を手にもって拠点の入口へ向かった。


 俺たちが近づくと、相手もこちらの存在に気づいたようで、俺とレネを囲むように移動を始めた。

「俺たちの拠点に何か用事でもあるのか」

 ひとりだけ豪華な衣装を着ている長剣をもった男がいたので、そちらに向かって声をかけた。


「住みやすそうな場所があったから、オレたちビンナン盗賊団のアジトにしようと思っていた。いつの間にか魔物も少なくなって、オレたちが拠点を引き継ごう」

 誰も来ない場所だったが、俺とレネが魔物を退治しすぎたからか移動が楽になって拠点へ来られたらしい。今後は襲ってくる魔物以外は残すのがよさそうだ。


「ボスの言うとおりだ。頑丈な塀はアジトにうってつけだ」

「そこの女は俺たちがもらってやる。好きなだけ快楽を味わわせてやる」

 豪華な衣装の男がリーダーのようで、周囲からは下品な言葉も飛び交う。さすがに最後の言葉だけは許せなかった。殺すまではしないが充分に痛い目に合わせる。


「盗賊団なら倒されても文句はないはずだ。レネ、半分は任せる」

「リーダーはゆずりますわ。思う存分に倒してください」

 俺のかけ声にレネが答えてくれる。


「オレたちを倒せると思っているのか。お前たち遊んでやりな」

 リーダーの指示で、俺たちに向かって盗賊たちが駆け寄ってくる。レネはリーダーと反対側にいる盗賊たちへ、投擲用の短剣を投げながら切り込んでいった。俺もリーダーめがけて槍を振り回した。


 人数的には無謀のように思えるが、ゲームの雑魚モンスターを倒すように盗賊たちの数が減っていく。レネを参考に収納した鉱物から小石を作って投げつける。便利な技と神力のおかげで、1分くらいで盗賊たちは半分まで減った。


「若い見た目の割には頑張っているがそこまでだ。オレの部下たちを簡単に倒した代償は高くつく。オレの魔法の前にひれ伏すのだ、ハイ・アース」

 リーダーが呪文を唱え終わると、右手にサッカーボールサイズの岩でできた塊が出現して、そのまま俺に向かってくる。


 勢いのある岩の塊だが、今の身体能力なら簡単に避けられる。だがあえて避けずに無効化にする方法を思いついた。


 鉱物加工と心の中で唱えて、目の前に岩の壁を作った。飛んできた岩の塊が壁に阻まれて砕け散ったが、リーダーは少し驚いただけで動じた様子はなかった。


「少しはやるようだが、この魔法ならどうだ。強力な範囲魔法の前に砕けるのだ、レン・ハイ・アース」

 先ほどと同じサッカーボールサイズの岩の塊が出現して、リーダーは岩の塊をオレたちに向かって投げつける。多数のサッカーボールサイズに分裂して、半径20メートルくらいの範囲へ降り注ぐ。


 降り注ぐ中心には俺とレネがいる。レネは涼しい顔で避ける準備をしているようだが、面白い避け方を考えついた。


 今度は鉱物収納と念じると、岩の塊はオレに近い順からこつぜんと姿を消す。1秒も経たないうちにすべての岩の塊が俺の収納空間へと入っていった。


「何が起きている! オレの魔法は完璧だったはずだ」

 さきほどまで動じなかったリーダーが、驚きを隠す素振りもせずに叫びだした。


「俺にかかれば、魔法は意味をなさない」

 鉱物以外は収納空間へ収められないが、はったりが効いたようで何名かの盗賊たちが荒野へと逃げ出していく。追いかけてもよかったが、ほかの盗賊たちが拠点に入り込むと面倒なのでそのまま見逃した。


「俺たちの拠点に来たのが運の尽きだ。大人しく降参すれば手荒なまねはしない」

 俺の言葉にも武器を捨てる様子はなかった。


「まだまだ人数では負けてない。お前たち、ビンナン盗賊団の意地を見せるぞ」

「ボスに続け」

 威勢のよい言葉も1分とは持たずに、逃げた盗賊たち以外をすべて倒した。神力が体に馴染んできたのか、戦いになれたのかは分からないが、ほとんど攻撃を受けずに盗賊たちを生け捕りにした。


「キュウヤ、彼らをルーペンの街へ渡すつもりですか」

「このまま放置にはできない。途中で逃げないようにロープの代わりを用意する」

 盗賊たちをレネに任せて、丘のふもとまで行って鉄鉱石を収納空間へ入れる。レネの元へ向かいながら、鉱物加工で太い針金を作った。


 レネと一緒に盗賊たちを縛って逃げられないようにする。俺たちの強さに観念したのか、抵抗する盗賊たちはいなかった。

 いまの時間に街へ向かうと夜中に荒野を移動するため、盗賊たちを引き連れてでは大変なのが目に見えている。明日の夜明けに街へ向かうことにした。


 翌日の明るくなり始めた時間帯に、盗賊たちを引き連れて拠点をあとにする。ルーペンの街へ向かう前に、拠点の入口に塀と同じ三角柱を置いて外から入れないようにした。三角柱も収納できたので、俺たちには扉と同じ感覚で使えそうだ。


 昼過ぎにプーペンの街の南門に到着して、門番の前へ移動する。

「荒野で盗賊たちを捕まえた。どうすればよいのか教えてほしい」

 門番に冒険者ギルド証を見せたあと、盗賊たちを連れている状態を説明した。


「お前たちふたりで、20人以上の盗賊を捕まえたのか」

「その通りだ。証拠はないが盗賊たちに聞けば分かるはずだ」


「そうか、仮に何人で捕まえたとしても、これだけの人数はすごい。きっと大きな盗賊団に違いない」

 ふたりで倒すのを疑われるのは仕方ないと思った。普通に考えれば無理な話で、よほど名の知れた冒険者や騎士が捕まえるレベルだろう。


「たしかビンナン盗賊団と名乗っていた」

「本当か! ふたりで捕まえたのにも驚いていたが、ビンナン盗賊団は街の自衛団や冒険者ギルドでも手を焼いていた。悪いが冒険者ギルドに確認を出すから、ふたりは詰所の中にある部屋で待っていてくれないか」


 俺たちがうなずくと詰所から複数の門番を呼んで、街中へ走る者や盗賊たちを連れていく者に分かれた。俺とレネは案内された部屋で少し待っていると、門で対応してくれた門番が部屋へ入ってきた。


「待たせてすまなかった。冒険者ギルドの話しではビンナン盗賊団で間違いなさそうだが、もう少し詳細に調べたいから、明日以降にギルドへ来てほしいらしい。簡単な経緯はこの場所で俺が確認するが、あとで冒険者ギルドへ行ってほしい」


「わかった。冒険者ギルドへは依頼を受けようと思っていたから、近いうちに冒険者ギルドへ行ってみる」

「それは助かる。関連部署へ情報を渡すために、簡単な質問に答えてほしい」


 再度、冒険者ギルド証を見せてどのような人物かを確認されたあと、どのような場所で盗賊団を捕まえたのかを聞かれた。拠点の詳細位置は説明しなかったが、盗賊団が知っている内容は素直に答えた。


 1時間くらい答えてから詰所を出て、街中で食材と日用品の買い物をしてから拠点へと戻った。気分的に疲れたので、その日は簡単な食事を取って早めに寝た。

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