第17話 冒険者ギルドに到着
俺とレネはピーノスさんに教わった冒険者ギルドへ向かった。アコトカ神殿から西側へ移動して、南東エリアの中央付近にあるようだ。
冒険者ギルドがあると思われる区画へ行くと、体格のよい男性や装備が充実した女性などが通りを歩いている。冒険者ギルドと思われる建物の入口では、パーティーメンバーらしき体格のよい男性4名が扉の奥へと入っていった。
「この建物が冒険者ギルドだろう。まずは冒険者ギルドの登録と魔石の換金を優先して、依頼募集があっても落ち着いてから実施したい」
「分かりましたわ。私も今日は、拠点に戻って新しい技を確認したいです」
神殿のステータスボードで、俺とレネは収納関連の技が新たに追加された。俺も鉱物収納の技は早く試したいから、登録と魔石の換金のみにしたかった。
俺とレネは冒険者ギルドの扉を開けて中へと入る。入口付近は待合室なのか広い空間にテーブルが置いてあり、椅子に座っている何名かがこちらへ顔を向けたが、すぐにほかの者たちと会話を始める。
奥にカウンターがあり、その横には掲示板があった。カウンター以外に受付のような場所がなかったので、空いているカウンターへ向かって歩き出した。
「ここが冒険者ギルドの受付だろうか」
「その通りです。冒険者ギルドへの登録ですか、それとも依頼の相談でしょうか」
答えてくれた20代くらいの女性は青色の長い髪が目を惹くが、兎を思わせる長い耳があって異世界と改めて認識させられた。
「わたしの顔に何かついていますか」
どうやらじっと見つめてしまったようだ。
「田舎の村から出てきて、獣族を見かけたのは初めてだったので、気を悪くしたのなら申し訳ない」
「そうでしたか。私はラビット族ですが、この街にはキャット族など獣族はたくさんいますよ。ただ街中で見つめると不審に思われるので注意してください」
「わかった。これからは気をつける」
すなおに謝った。元の世界でも他人を見つめるのは変な疑いをもたらすし、しかも相手が女性ならなおさらだった。
『キュウヤは、獣人族の女性が好みなのかしら』
めずらしくレネからの念話で、いつもよりも声の質が異なっていると思えた。
『珍しかっただけだ』
『……、分かりましたわ』
少し間を置いてから、レネから返答があった。何か誤解があったかもしれないから話し合いたいが、今は魔石の換金と身分証明書を早めに実施したい。
「話を戻すが、仕事や身分証明書を確保するために冒険者になりたい」
改めて冒険者ギルドへ来た目的を話す。
「分かりました。受付のイリスが担当させて頂きます。おふたりのお名前を教えて頂けませんか」
そういえば名乗っていなかった。
「俺がキュウヤで彼女がレネだ」
「よろしくお願いしますわ」
さきほどの念話と違って、いつものレネに戻っていると感じた。イリスさんが質問内容を確認してきたので、仕事と身分証明書が必要な理由を簡単に説明した。
「仕事と身分証明書ですが、両方とも冒険者ギルドで可能です。冒険者ギルドに所属すれば依頼を受けてお金を稼げて、ギルド証がそのまま身分証明書になりますよ。ギルドは国家を超えた繋がりですので、他国でもギルド証を使用できます」
イリスさんがていねいに教えてくれた。依頼内容に魔物討伐があれば、俺たちなら金を稼ぐのは簡単だろう。問題はギルドへの登録方法だ。
「どのようにすれば、冒険者ギルドに登録できるのだろうか」
神殿の情報では、何かしらの登録基準があるはずだった。
「実践形式の試合で判断します。冒険者ギルドの依頼には街の困りごとや薬草採取などもありますが、魔物や盗賊討伐など危険を伴う依頼も多いです。そのため実力をみるために試験官との試合で、よい成績を残せば合格となります」
「試験官に勝てば登録できるのだろうか」
「元冒険者が試験官となりますので、勝たなくても平気ですよ」
俺とレネは単独で中位魔物を倒せるが、勝たなくてもよいのなら気軽に試合ができる。逆に知識が必要な試験なら、この世界になれていないから苦労したはずだ。
「さっそく受けたいが、今からでも可能だろうか」
もうそろそろ昼の時間になりそうだが、食事よりも登録を優先したかった。
「試験の前にステータスを確認させて頂けませんか。試験の合否に関係せずに銀貨1枚分の1万ミネラが必要になりますで、試験前に能力を確認しています。能力の結果で落とすことはありませんが、冒険者に向いているかどうかが分かります」
とくに断る理由はなかったので俺たちが了解すると、イリスさんは奥の扉へ移動して平たい板を取ってきた。異世界へ召喚されたときに使用したステータスボードとほとんど同じだった。
「ここに手を乗せればよいだろうか」
「お願いします。一般公開以外の情報は、わたしに教えなくても大丈夫ですよ」
俺が手を乗せると、俺の目の前には詳細が表示されて、反対側には一般公開の内容が写し出されているはずだ。
「そちらにも見えていると思うが、魔力恩恵と魔法能力は1で、魔法種類と魔法契約はなしだ。スキルはユニークの鉱物スキルだが、戦闘自体には向いていない」
「街の困りごとや薬草採取などの依頼はこなせそうですが、その能力では魔物討伐などはきびしいと思います。鉱物関連なら商工ギルドなどがおすすめですよ」
イリスさんは冒険者に不向きな能力結果になれているのか、おどろいた表情は見せずにやんわりと別の職業をすすめてきた。
「たしかに能力だけなら低いが、魔物討伐の実績はある」
「その通りですわ。キュウヤも私も荒野にいる魔物を倒しています」
「荒野の魔物は強いのですが、レネさんの能力もみせてもらえますか」
イリスさんは半信半疑な表情を浮かべて、レネにもお願いした。ステータスボードに神力は表示されず、傍から見ると俺たちは弱いから、イリスさんが納得する方法を考える必要がありそうだ。
レネが手を乗せると、イリスさんの表情がきびしくなった。
「スキル以外はキュウヤと一緒ですわ」
「植物スキルなら農業ギルドが向いていると思います。冒険者の響きはよいですが命がけの職業ですので、キュウヤさんもレネさんもよく考えたほうがよいです」
「農業ギルドも興味はありますが、このまま冒険者ギルドへの登録で平気ですわ」
「レネが話しているとおりに、試験を受けさせてくれないだろうか。俺たちの能力をみて心配するのは分かるが、試験で俺たちの実力を確かめてほしい」
俺たちの戦いをみれば、必ず納得してもらえる自信はある。
「そこまで意思が固いようでしたら、私が拒否することはできません」
困ったような表情を見せながら、イリスさんが答えてくれた。
イリスさんの困った表情が気になったのか、俺たちの周りに冒険者と思われる4人の男女が近寄ってきた。
「イリスさんがせっかく心配してくれているのに、冒険者になりたいとは感心しないな。背伸びができるのは若者の特権だが、無謀とは意味が違う」
最初に声をかけた来たのは、盾を持っている1番大柄な男だった。
「その通りだ。ステータスボードの結果はあくまでも指標のひとつだが、それでも魔力なしでは冒険者は辛いぞ」
「自分たちはまだゴールドランクだが、何度も危険な目にあっている。悪いことは言わないから、別の職業に進むほうが身のためだ」
「それでも冒険者になりたいのなら、私たちが試合で実力を確認してやるわ」
4人の男女が、見た目と同様に迫力のある声で詰め寄ってきた。クリニエル王国のように俺たちの能力を馬鹿にした雰囲気ではないが、冒険者になるためには彼らと試合する必要がありそうだ。
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