第18話 ギルド試験?
「俺たちが無料の試合で冒険者に向いているか判断してやるぞ。その代わりに俺たちに手も足も出ないようなら、そのまま冒険者ギルドから出ていくのが望ましい」
4人の男女を代表して、盾を持っている大柄な男が提案してくる。よくありそうな新人いじめのような中身ではあるが、その割には俺たちを馬鹿にしている雰囲気はない。困りながらイリスさんへ視線を向ける。
「疾風の牙というパーティーで、お節介が好きな4人組ですよ」
「イリスさん、それは違うぜ。俺たちは一人前の冒険者がどの程度の強さかを、冒険者に憧れている若者たちに自慢しているだけだ」
「実際はお金のなさそうな登録希望者に、試験を受ける必要があるかどうかを分からせるためですよね。喧嘩をするわけではないので、ギルドとしては止める理由はありませんが、もう少しやわからく話してほしいです」
どうやらお金に困ってくる希望者に、無料で実力を教えているのだろう。俺たちは魔石を売ればお金には困らないが、試験代の1万ミネラはそれなりの金額だ。
「それで俺たちはどうしたらよいのか」
対応に困ってイリスさんへ聞いた。
「ステータスを見た限りでは冒険者へ向いていませんので試験はおすすめできませんが、受けるかどうかはキュウヤさんとレネさんの意思で決まります。ただ時間があるようでしたら、視野を広げるのもよいかもしれませんよ」
受付という立場があるためか、直接的に試合を推奨していないが、間接的には試合を受けるのが妥当な答えに聞こえる。
『せっかくだから登録試験よりも冒険者の実力を確認するために、彼らの申し出に乗ろうと思うが、レネはどのように思う?』
『面白そうですわ。一人前の冒険者レベルが分かれば、キュウヤの実力がどのていどかも把握できます』
レネも冒険者との試合に賛成してくれたので、レネに視線で答えてから、大柄な男へと顔を向ける。
「今後、俺たちの先輩になるかもしれない冒険者だから、胸を借りたいと思う。無料の試合というのはどのような感じになるのか?」
「俺たちの実力をみたいとは向上心のある若者だ。試合は俺たちの誰かと戦ってもらうが、勝ち負けは関係ない。魔力なしでスキルも冒険者には向いていないから、俺たちに勝てば登録試験の費用も出してやるぞ」
どうやら1体1の試合で純粋に実力差を教えたいのだろうが、俺とレネは強いから圧倒的な差で勝ってしまいそうだ。
「それは楽しみだ。俺たちはいつでも構わないが、どこで試合をするつもりか」
「冒険者ギルドの訓練場だ」
大柄な男は答えたあとに、視線をイリスさんへ向けた。
「仕方ありません。今なら訓練場は空いていると思います。わたしが立ち会いますから、くれぐれも怪我はさせないでください」
俺たちはイリスさんに連れられて、冒険者ギルドの裏手に移動した。
建物の裏側はテニスコート4面くらいの広さがあり、数名ほどの人物が剣を使いながら動きを確認しているようにみえた。隅では案山子のような的に、初めて見るがたぶん魔法を打ち込んでいる。俺もいつかは魔法を使ってみたい。
「こちらに訓練用の武器があるから、好きな武器を選んでくれ」
建物の近くにある小屋へ案内されて、扉の中にはいろいろな武器が何本も置いてあった。武器を手にとると刃がつぶれているので、安全面に配慮しているのだろう。
「俺は槍を使う」
「私はこの短剣にしますわ」
俺たちが武器を取ると、疾風の牙もそれぞれ武器を手に取った。大柄な男は長剣と盾で、かっぷくがよい男が斧、小柄な男が短剣、細身の女が杖だった。唯一の女は服装と武器からして、魔法使いのようだ。
人がいない場所へ移動してから、大柄な男が俺たちの前に来る。
「まずは男から試合を始める。俺たちの武器を見ながら好きな相手を選んでくれ」
「俺は接近戦にもっと慣れたいから、あなたとの試合を望む」
「そうか、俺は強化魔法を使わないから、思う存分に打ち込んでこい」
「キュウヤさんはまだギルドメンバーではないので、無理はしないでください」
イリスさんにうなずくと、俺と大柄な男の周囲には空間ができた。俺が槍を構えると、大柄な男が長剣と盾を構えた。細身の女が少し離れた位置で立ち止まって、俺たちを確認したから審判役のようだ。
「私が審判を引き受けましょう。それでは試合開始」
開始の声に反応して大柄な男が歩きながら詰め寄ってくるので、槍の長さを生かして先に攻撃を仕掛ける。相手は剣で槍を払ったが、少し驚いた表情をみせた。急に相手は飛びかかるように俺へと斬りかかってくる。
レネとの戦いで槍の使い方に慣れてきたのか、相手の動きがよく分かる。いつでも倒せる気がして、荒野で出会ったミュランのほうが強いと感じた。試合を長引かせる意味はないので槍を連続で突き出して、相手の剣をはじき飛ばした。
そのまま相手を倒して槍を向けた。
「参った、俺の負けだ。強化魔法を使っても勝てるか分からないほどに強かった。これなら試験を受けても合格になるだろう」
「俺を認めてくれて助かった」
レネの元へ戻ると、レネ以外は驚いたような表情で俺を見ている。少し離れていたイリスさんが近寄ってきた。
「キュウヤさんはすごいです。この強さがあれば、魔法がほとんど使えないほどの魔力でも、下位魔物なら充分に対応できますよ」
「俺よりもレネは強いから、ふたりとも試験を受けられるだろうか」
「キュウヤさんよりも強いのでしたら問題ありません」
ステータスを見たときの対応と異なって、実際の動きで納得してくれたようだ。
「ちょっと待ってくれ。つぎは自分と試合をしてほしい。あの強さがあるのなら、自分が魔法を使ってちょうどよいはずだ」
短剣をもった小柄な男が俺たちの前に立ちふさがった。すでに試験ができる実力をみせたが、彼らは試合を望んでいた。
「私が相手をしますわ。魔法でもスキルでも自由に使ってください」
「使う魔法は火魔法の単体用だ。それ以上は練習では危険をともなう」
「構いませんわ」
レネと小柄な男が移動して、審判は細身の女がするようだ。
「それでは試合開始」
小柄な男はすばやい動きで移動する。
「ファイア」
短剣を持っていないほうの手から、野球ボールサイズの火をまとった玉がレネに向かっていく。レネは短剣で受けずに軽く避けた。
いつの間にか相手がレネの近くへ移動して、短剣を振りかざした。だがレネは慌てる素振りもみせずに短剣で受け返す。相手はジャンプするように後方へ下がる。
「ハイ・ファイア」
今度はサッカーボールサイズの火の玉だった。レネはよけずに火の玉を素手でたたき落とした。予想しない行動に驚いていると、急にレネの姿が消えたかに思えた。目で動きを捕らえたときには、相手の胸元へ短剣を押し当てていた。
「これで私の勝ちですわ」
何事もなかったようにレネが戻ってくる。
「手は大丈夫か」
「これくらいなら心配ありませんし、キュウヤもできると思いますわ」
思えば神力の体は猛毒も影響しなかったから、ある程度の強さの魔法までは効かないのかもしれない。
「怪我がないのはよかったが、さすがに驚くからよけてほしかった」
「私を心配してくれてうれしいですわ。次からは軽くかわします」
「レネさん、魔法をたたき落とすのはおかしいです。怪我もないようですが、無理はしないでください」
心配そうな表情のイリスさんが、声を張り上げておどろいてもいるようだ。神力を知っている俺でもおどろいた行動なのだから、イリスさんの気持ちもわかった。
「レネも無事だから大丈夫だ。これで俺もレネも試験を受けて問題ないだろうか」
「もちろんです。疾風の牙の皆さんも異論はありませんよね」
「俺たちに勝ったのだから、文句をつけようがない」
言葉は俺たちを認めてくれたが、誰の顔にも悔しさがあるのが読み取れた。それほど俺とレネの行動は常識を外れていたのかもしれない。
「それでは受付へ戻ります」
受付へ移動しようとしたときに、建物から体格のよい男性が姿を見せた。
「お前たち、訓練場で何をしていた!」
腹に響くような重たい声が訓練場に響き渡った。
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