第16話 神託と神殿長

 神界から礼拝堂に戻ってきて、横に視線を向けるとレネがいたので声をかける。

「今の現象は夢だったのか」

「事実ですわ。ただ誰かに話しても信じてもらえませんから、キュウヤの胸の内へしまっておくのがよいと思います」


「そうか、事実なら神殿造りが最初の目標になりそうだ」

「本当に私の神殿を造るつもりですか」

 確認するかのようにレネが聞いてくる。


「その通りだが、嫌だったか」

 俺自身はレネの神殿を造りたいが、レネ自身が反対するのなら、そこまでして神殿を造るつもりはない。祭っている神が認めない神殿なら意味がないからだ。


「すなおな気持ちで言えばうれしいですわ。でもキュウヤにはこの世界で好きなように過ごしてもらいたいので、ほかにやりたいことがあれば優先してほしいです」

 レネも喜んでくれるのなら、神殿造りは問題なさそうだ。


「鉱物スキルでいろいろと楽しむつもりだが、神殿造りも同じように俺がしたい内容だから安心してほしい。神器については楽しみにまっていてほしい」

 レネに話していると誰かが俺たちの近くへ来たので視線をむけると、さきほど俺たちを案内してくれた神官の男性だった。


「こちらのふたりを開示部屋まで案内しました」

 神官の男性は俺たちではなくて、うしろにいる50代くらいの年配男性へ向けて答えていた。長身の男性で、見た目はやさしそうな雰囲気だった。


「私はこの神殿の神殿長であるヴォルンです。少しお話を伺いたいのですが、別室まできて頂けないでしょうか」

 神界での内容を思い出して、神アコトカが神殿長へ神託を出すと話していた。視線をレネに向けると、レネはうなずいた。


「とくに用事はありませんが、ふたり一緒でも構いませんか」

 神殿長なら地位も高いはずなので、いつもよりもていねいな言葉使いにした。

「はい、平気です。案内しますので、一緒に着いてきてください」

 俺たちがうなずくと、神殿長であるヴォルンさんが先頭で歩き出した。神官の男性は1番うしろから着いてくる。案内された部屋は開示部屋だった。


「もしかして、俺たちの能力を知りたいのですか」

「くわしく説明する前に、おふたりが探している人物か確認するために、それぞれのスキルを教えてくださいませんか」


 俺たちのスキルはユニークスキルだから、それで判断ができるのだろう。技の詳細を公にするつもりはないが、ステータスボードで公開されるスキル名なら、簡単に知れ渡るから教えても問題ないだろう。


「分かりました。まずは俺から確認します」

 ステータスボードへ手を乗せてステータスを表示させた。公開される中身をみてヴォルンさんは目を見開いておどろくような表情を見せた。つづけてレネもステータスボードへ手を乗せると、ヴォルンさんが少し震えているようにも感じた。


「ありがとうございます。個室で話したいので着いてきてください」

 ヴォルンさんは冷静を装っているようだが、明らかに揺動しながら話しているのが俺に伝わってきた。案内された部屋は開示部屋よりも奥にあって、広さはそれほどでもないが格調高い内装をしていた。


 座り心地のよさそうな椅子をすすめられて俺とレネが座ると、向かい側にヴォルンさんが座って神官の男性はそのうしろに立っていた。

「わざわざ個室まで用意して、俺たちから何を聞きたいのか教えてください」

「そのまえに名前を教えて頂けないでしょうか」

 そういえばまだ名乗っていなかった。


「俺はキュウヤで、彼女がレネになります」

「ありがとうございます。わたしはすでに名乗りましたが、司祭で神殿長でもあるヴォルンで、うしろにいる彼は神官のピーノスです。キュウヤさんとレネさんは私が探していた人物に相違ないようですので、連れてきた理由を話しましょう」

 ヴォルンさんは深呼吸してから続きを話し始めた。


「さきほど、神アコトカ様より神託が降りました。抽象的な内容でありましたが、簡潔にまとめますと、鉱物スキルと植物スキルを所有している男女に協力せよとの神託でした。ふたつのスキルともユニークスキルでしたので、確信がもてました」


 神アコトカから事前に聞いていたから驚きはないが、このまま素直に受け取っては神との繋がりを疑われそうだ。悪いことをしているわけではないが、神界へ行ったと分かれば騒ぎになるのは目に見えている。


「俺たちは初めて、この神殿を訪れました。何かの間違いではないでしょうか」

「神託ですから間違いはありません。神アコトカ様のお考えは、私たちとは次元が異なります。ぜひ私たちにキュウヤさんとレネさんの協力をさせてください」

 ヴォルンさんが深々と頭を下げると、うしろにいた神官の男性も頭を下げた。神アコトカとは良好な関係が築けそうだから、このまま好意に甘えたい。


『協力を申し出てくれるので、お願いしようと思うが、レネは何かありそうか』

『とくにありませんが、日常生活で必要な情報を聞くのはどうかしら』

『魔石の換金や身分証明書は早めに知りたいから、その辺りから聞いてみる』

 レネとの念話を終えて、ヴォルンさんへの対応内容が決まった。


「信じられない内容ですが、神託なら俺たちに断る理由はありません。協力してくれると言っても、今困っているのは魔石の換金場所と身分証明書の入手くらいです。そのような内容でも平気でしょうか」


「今お話しした内容で充分です。魔石の換金は冒険者ギルドが1番よいでしょう。身分証明書は3つあるギルドのどこかで登録すれば、身分証明書となるギルド証を発行してもらえます。ただし、それぞれのギルドで登録の基準が異なります」


「神殿長、キュウヤさんたちなら中位魔物の魔石をもっていたので、冒険者ギルドで平気だと思います」

 うしろにいるピーノスさんからの発言で、冒険者ギルドの登録基準は俺たちなら問題ないようだ。


「中位魔物の討伐には、キュウヤさんとレネさんも参加したのですか」

 ヴォルンさんが聞いてくる。ふたりで討伐したというとおどろきそうだから、曖昧な表現で肯定したほうがよさそうだ。


「俺もレネも中位魔物の討伐へ参加した」

「それでしたら冒険者ギルドの登録試験は平気でしょう。冒険者ギルドの場所が不明でしたら、ピーノスから聞いてください。今後も困りごとがあれば神殿へ来てください。神殿側の窓口はピーノスにさせますので、そのほうが話しやすいでしょう」


 ヴォルンさんとの話し合いも終わって、ピーノスさんに冒険者ギルドの場所を教わった。神殿の入口でふたりと別れて、俺とレネは冒険者ギルドへと向かった。

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