第15話 異世界の神様
閉じている目を通して明るさを感じたので、何事かと思って目を開いた。先ほどまでは礼拝堂にいたのに、真っ白な空間が周囲に広がっていた。
「キュウヤも来ましたか」
声のほうへ振り向くとレネがいた。
「ここは? もしかして神界なのか」
レネと初めて出会った時と周囲の雰囲気が似ていたので、自然と声に出た。
「その通りである。呼び寄せた場所はこの世界タカヤイの神界で、地球の神が召喚されたときには驚きを隠せなかったのである。一度話し合いがしたいと思って、神界へ呼んだのである」
男性の声がしたので意識すると、目の前に40代くらいにみえる男性の姿が浮かび上がった。礼拝堂にあった像に雰囲気が似ているので、男性は神アコトカだろう。
「この世界の神に会えてうれしいですわ。私はレステアネ、この世界ではレネという名前で過ごしていて、彼がキュウヤです。日本で多発している異世界召喚を調査している中で、キュウヤと一緒に不覚にも異世界召喚へ巻き込まれましたわ」
レネが率先して経緯を説明した。相手は神だから、俺よりもレネが会話したほうが相手も話しやすいだろう。
「俺はアコトカで、アコトマと一緒にこの世界を造ったのである。俺がふたりをこの世界へ召喚したわけではないが、神力で満たされているふたりは貴重な存在で、俺のできる範囲で優遇するのである」
「この世界でも神力が神の地位を示すのですか」
「その通りである。世界から放出される魔力から神力へ変換しているが、魔力を100使っても神力は1なのである。精霊や神獣に幻獣も神力を放出するが、ふたりが放出する神力に比べればわずかで、俺をふくめた神々にとってふたりは貴重である」
魔力や神力は魔法を使うためのエネルギーと思っていたが、神にとっては重要な意味合いをもつらしい。俺とレネは神力でできているから、変換効率が100倍異なるのならば、優遇してくれるのもうなずける。
「それでは私とキュウヤが、この世界で気ままに過ごしても構わないかしら。スキルという面白い仕様にも興味がありますわ」
「自由に過ごして構わないのである。俺たちは地上界へ直接関与できないから、魔力を吸収する魔族と魔物を討伐してくれるとうれしいのである」
「キュウヤが神力になれるためにもスキル使用にも、魔族と魔物の討伐はちょうどよい相手なので、みかけたら倒しておきますわ」
レネは俺の体を消滅させたのをまだ悔やんでいるのか、俺が神力を使えこなせるように考えているようだ。レネの心遣いがうれしいと思う反面、レネ自身がこの世界を楽しんでほしいと心から願った。
「頼もしい言葉でうれしいのである。同じ神に対して、俺から加護を与えるのは問題であるから、ふたりを優遇するようにこの神殿の神殿長へ神託しておくのである。ふたりが神界へいられるのもあと少しだが、何か聞きたい内容はあるか」
「私はありませんが、キュウヤは何かあるかしら」
レネが俺のほうへ視線を向ける。神や神力についても聞きたいが、俺の目的を成し遂げるためにも知りたい内容があった。
「ふたつほど質問させてほしい。ひとつは異世界召喚のスキルをなくすことは可能だろうか。もうひとつはレネを神に戻したいが方法はあるだろうか」
俺の言葉にレネの瞳が俺を見つめた。俺がレネを神に戻したいとは思っていなかったようで、レネの驚いている表情を見るのは初めてかもしれない。レネの視線を感じ取ったあとに、神アコトカへ顔を向ける。
「スキルは地上界へ与えたので、残念ながらなくせないのである。過去に3柱神を生み出したが、地上界のものを神にする方法は知らないのである」
スキルは可能ならなくしたい程度だったので、なくせなくてもそれほど気にならなかったが、レネを神にする方法が分からないのは残念だった。少しでもレネを神に近づける方法を考えて、ひとつだけ思い浮かんだ。
「それではレネを祭る神殿を造っても構わないだろうか。俺たちは荒野に拠点を造っているが、その場所をレネの神殿として崇めたい」
「地上界のものがどの神を信仰するかは自由であるから、神殿を造るのに反対しないのである。神殿の定義はむずかしいが、信者と神器、それに土地を用意して、神殿を造ると宣言すれば、俺が神殿と認めるのである」
神殿の許可が下りるかは半信半疑だったが、神殿を認めてもらえるのはうれしかった。少なくとも神アコトカは話の分かる神様みたいだ。
「神様が認めてくれてうれしい。ところで土地はわかるが、信者と神器はどのように確認できるのだろうか」
「信者は私の加護を持っている、キュウヤがいれば平気ですわ」
レネの言葉にステータスボードで確認した、神レステアネの加護を思い出した。
「神器は彼女の神力が通っている品物であれば平気である。神殿を造る準備が整ったら俺が祭られている神殿でお祈りしてほしい。そうすれば神殿長へ神託を出して、神殿を宣言する際の立会人になってもらうのである」
「キュウヤが決めた品物があれば、私が神力を流しますわ」
神器の作り方もレネがいれば可能とわかったので、神殿造りの目処が立った。神殿長が神殿の宣言時に立ち会えば、公で認められるのに近い。神にする方法は分からなかったが、ここまで優遇してもらえるとは思わなかった。
「神殿の準備ができたら、また神殿を訪れたい。神殿長に神託までしてくれて非常にうれしいが、俺自身は元々人間なので、それまでしてもらえる理由がわからない」
「種族が何であれ、精霊や神獣と幻獣以上に神力を放出する存在は貴重である」
俺の神力放出は俺が思っている以上に神様には重要で、願いを叶えてもらえるほどには価値があるようだ。
「理由がわかった。俺も魔力を吸収する魔族や魔物を見かけたら倒しておく」
「うれしい言葉である。そろそろ時間が来たようである」
周囲に明るい光が満たされたので目をつぶって、明るさがなくなったと感じてから目を開けた。目の前には神アコトカの像がある礼拝堂に戻ってきていた。
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