第14話 神殿とステータスボード

 レネと一緒にルーペンの街へ入ると大きな通りが奥まで続いていて、馬車がゆっくりと行き来している。道の両側には店があって、冒険者らしき服装から庶民と思われる姿などを見受けられる。


「東京と比べれば明らかに人通りは少ないが、それでも活発そうな雰囲気で人々が生き生きしている」

「この街には多種多様な種族がいるようですが、異種族同士が普通に暮らしていますわ。きっとよい街なのでしょう」


 レネの言葉に注意深く見渡すと、俺たちに似ているヒューマン族以外に、耳と尻尾がある種族もいて、前に看守のふたりから聞いた獣族と思われる。

「拠点で落ち着いて時間ができれば、獣族たちとも仲よくしてみたい」

「私たちには時間がありますから、可能だと思いますわ」


 珍しそうに辺りを見渡しながら、門番に教えてもらったアコトカ神殿へ向かう。アコトカ神殿は到着した南門から中央通りを北側へ向かって、中心部へ到着する前の左側にあるらしい。白い石造りの3階建てで、すぐに分かると聞いた。


 目当ての建物は周囲から浮いていたので見つけやすかった。

「この建物がアコトカ神殿だと思う」

「わずかながら神力を感じますから、神殿で間違いないと思います」

 神殿だから神力があふれているのかもしれない。


 通りから少し奥にあるアコトカ神殿の入口へ近づいていく。受付があるのか分からずに辺りを見渡していると、入口付近にいた男性がこちらへ歩いてくる。白色と青色を基調とした、制服と思われる服を着ているので神殿関係者かもしれない。


「何かお困りでしょうか」

「初めて神殿に来たから、どうすればお祈りできるかと思って探していた」

「そうでしたか、僕は神殿の神官ですのでご案内しましょうか」

 男性は20代くらいのヒューマン族で、少し小柄なふっくらとした体型で、神殿関係者だからか清潔感があった。


 男性の提案にどうしようかとレネを見たら、レネは頷いてくれた。

「ぜひ、お願いしたい」

「分かりました。ご案内できる場所は神アコトカ様が祭られている礼拝堂と、個人の能力を確認できるステータスボードがある開示部屋があります。ほかにもいくつかありますが、通常で入れる場所はこのふたつとなります」


「ステータスボードで能力を確認できるのか」

 スキルは召喚時にみただけだから、詳しい内容をもういちど確認しておきたい。


「もちろん可能です。ただステータスボードを使う場合は、気持ちで構いませんので神殿への寄付をお願いしています」

「実はこの街へ来たばかりでお金はないので、魔石でも構わないだろうか」


「寄付しようと思う気持ちが大事ですから、魔石でも平気です」

 レネは元女神だから、この世界の神とは仲よくしていきたい。ただ相場が分からないので、念話でレネに聞いてみる。


『下位魔物と中位魔物の魔石があるが、どちらの魔石が無難だろうか。せっかくだから中位魔物の魔石をひとつ寄付しようと思うが、問題なさそうか』

『ふつうなら下位魔物の魔石で充分だと思いますわ。でもキュウヤが中位魔物の魔石を寄付したいのなら、その気持ちを優先したほうがよいです』

『それなら中位魔物の魔石を渡してみる』


 袋の中に手を入れて、大きいほうの魔石を取り出した。中位魔物の魔石と確認してから神官の男性へ渡すと、じっと魔石を見つめていた。

「この魔石だと何か問題がありそうか」

 下位魔物と中位魔物で魔石の大きさが異なるのは、荒野での魔物退治で把握できたが、もしかしたらそれ以外にも違いがあるのだろうか。


 俺が疑問に思っていると、神官の男性が口を開いてくれた。

「中位魔物の魔石だと思いますがよろしいのですか。あくまでも気持ちで構いませんので、下位魔物の魔石で充分です」

 中位魔物の魔石は10万ミネラと高価だったから、それで驚いていたようだ。


「俺たちの気持ちだから平気だ。俺たちふたりともステータスを確認したい」

「わかりました。それでは開示部屋へ行きますので、こちらへどうぞ」

 神官の男性に案内されて移動を始める。神殿を入ってすぐの場所には礼拝堂を思われる場所があり、奥には人の2倍以上はありそうな像が建っていた。お祈りをしている人もいたが、俺たちは横の扉から別の場所へと向かう。


 通路を少し進むと扉の前に神殿関係者と思われる男性が立っていて、俺たちを連れてきた神官の男性が挨拶すると、そのまま扉の中へ通してくれた。

 20名が座れるほどの広い部屋で、中央には大理石で作られたと思われるテーブルと、その上には召喚時にみかけたステータスボードらしきものが置いてあった。召喚時と比べると、ひとまわり以上は大きくて芸術品を思わせる美しさがある。


「ステータスボードの上へ手を乗せてください」

 神官の男性は中央にあるテーブルへ俺たちを招いてから、部屋の隅へ移動した。


 俺の横にはレネのみになったので、ステータスボードの上へ手を乗せる。俺だけに見えるような感じで、目の前の空中へ文字が浮かんだ。

 魔力恩恵と魔法能力は1のままで、魔法種類と魔法契約はなしで、ここまでは前回と同じだった。変化があったのは鉱物スキルで、新しい技が追加されていた。普通に話すと神官の男性に聞かれる可能性もあるので、念話でレネに結果を話す。


『鉱物収納という新しい技が追加された。収納対象は鉱物が主体でできている原石や加工品に合成品などだ。範囲が鉱物関連のみになるが、時間変化もないから便利なスキルに思える。拠点へ戻ったら試してみたい』


『すてきな技ですわ。本人のみが取り出し可能な場所に収納できれば、鉱物自体はもちろんのこと、武器や家までも持ち運べます』

『収納空間に大きな鉱物も収納できれば面白そうだ』


 念話を終わりにしてからテーブルの横へ移動して、レネに場所を譲った。今度はレネがステータスボードの上へ手を乗せた。


 すぐに確認が終わったようで、レネの視線が俺へと向けられた。

『私には植物収納の技が追加されました。収納対象は料理や飲料などの加工されていない植物と水のみですが、キュウヤと同じく収納時は時間変化がありません。植物に必要な水も収納できるのはうれしいですわ』

 鉱物と植物の違いはありそうだが、基本的には同じ技に思えた。


『食料なども保存できそうだから便利な技に思える。技だからそれなりの量が収納できると思うが、貴重すぎる技なら目をつけられかねない。似たような魔法や魔道具があるのか彼に聞いてみる』

『お任せしますわ』

 俺とレネの確認が終わったので、神官の男性がいる場所へ歩いていく。


「ステータスを確認できた。ところでひとつ質問しても構わないか」

「どのような内容でしょうか」

「田舎の村からこの街へ来たが、荷物がかさばって困っている。荷物を簡単に運べる魔法や魔道具があれば教えてほしい」


「それならアイテムバッグという魔道具があります。袋の姿をしている魔道具で、見た目以上に中へ品物を入れられます。収納できる容量で価格が変わり、最大容量は王族か一握りの人物しか持てないほど高額です」


 鉱物収納と似たような魔法具があるのは朗報だった。アイテムバッグから鉱物収納で収納した鉱物を取り出せれば、誰もスキルの技を使っているとは思わない。鉱物収納の技は拠点で確認するが、問題はアイテムバッグの入手方法だ。


「容量が少なくても構わないが、アイテムバッグはこの街で売っているだろうか」

「商工ギルドへいけば売っていると思いますが、最小容量のアイテムバッグでも、それなりの価格はします」


「ありがとう、値段は商工ギルドで確認してみる。最後に神へ感謝したいので、お祈りができる場所は何処だろうか」

「神殿に入ったところの礼拝堂でお祈りができますので、ご案内します」

 神官の男性に連れられて、俺とレネは来た通路を戻っていく。


 礼拝堂に着くと、立っている人や座っている人など、好きな姿勢でお祈りをしていた。神官の男性にお礼を言って、俺とレネは像の前へ移動した。像は成人男性の姿で威厳のある雰囲気に思えた。


 両手を合わせて目をつぶって、この世界でレネと健やかに過ごせるようにと神アコトカへ祈ると、目を閉じていても分かるほどに明るさを感じた。

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