3_ルシェロ王国の街
第13話 近くの街ルーペン
翌日の日が昇ると同時に、俺とレネは拠点をあとにしてルーペンへ向かった。俺たちの前に立ちはだかる道中の魔物を軽く払いのけて、昼前にはルーペンが見える位置まで到着した。
高さは分からないが街全体を城壁が取り囲んでいて、荒野から見える範囲にはひとつだけ門がみえた。門からはまっすぐに荒野へ進む道と、城壁沿いに左右へ分かれる合計3つの道がみえて、動いている人影のほとんどは左右の道へと移動している。
「ルーペンの街は荒野の魔物に対抗するために頑丈な作りにみえる。人の行き来も荒野には向かっていないから、それほど荒野の魔物は強いのだろう」
「キュウヤと私なら荒野の魔物は余裕ですから、この世界でも神力に勝るものはありませんわ。このまま街へ向かいますか」
「荒野から来たと思われるといろいろと聞かれそうだから、東の道へ出てから門へ進もう。入国審査があるか分からないが、俺たちを証明するものは何もないから、遠い田舎の村から旅してきた設定にしたい」
クリニエル王国へ戻るつもりはないから、何かを買うにしてもルシェロ王国で済ませる必要がある。怪しまれて門前払いをされるのは避けたいので、街へ来るのが初めての田舎者なら邪険にはしないだろう。
「分かりましたわ。異世界に来る前の設定では幼馴染みなので、幼馴染みのふたりが村から旅している感じかしら。基本的なやり取りはキュウヤに任せます」
レネの言葉に頷いてから、ふたりで東側に延びている道に向かって進む。門から見えない位置で道に合流すると、それから門へ向かって歩き出す。ふたりだけの旅人は珍しいのか、対面から来る人物たちは俺たちを見ながら後方へ過ぎ去っていく。
途中から城壁が近くに見えて、高さは5メートルくらいあるので、今までみた荒野の魔物ならば乗り越えるのは無理だろう。
「街へ入るのに列があるから1番うしろに並ぼう。何が必要かは分からないが、お金で解決できるのなら魔石を売る場所を聞けば何とかなると思う」
「私たちは後ろめたい行動はしていませんから、堂々とすれば平気ですわ。魔石も充分にありますし、足りないようなら魔物を討伐すれば問題ありません」
レネと話しながら列の最後尾に並ぶ。馬車と一緒に並んでいる集団が多く、見た感じでは商人に思えた。俺たちのような旅人らしき集団も見受けられたが、数人単位で固まっているので、ふたりだけの旅はめずらしいようだ。
俺たちの前にいた商人らしき集団が、門番からの確認と平たい板に手を乗せて青色になってから、門へ向かって移動を始めた。
俺たちは空いたスペースへ移動して門番の横で止まった。
「身分証明書があれば見せてほしい」
背丈よりも長い槍を持った、若い男性の門番が俺たちへ聞いてくる。
「田舎の村から来たから、申し訳ないが身分を証明できるものはない。その場合はどうすれば街へ入れるだろうか」
「その場合は1万ミネラで滞在証明書が発行できる」
ミネラはお金の単位と思われるが、価値観がどの程度か分からない。ここは門番とのやり取りから情報を得るしかない。
「実は村では物々交換が主流で、魔石なら手元にあるが何とかならないだろうか」
袋にしまってあった、下位魔物と中位魔物の魔石をひとつずつ取り出して、手のひらに乗せて門番へみせた。下位魔物の魔石は1センチくらいで、中位魔物の魔石はその2倍くらいの大きさがあった。
「中位魔物の魔石があるとはすごい。3大ギルドで換金すれば、下位魔物の魔石は1000ミネラ、中位魔物の魔石は10万ミネラくらいになるが、ここでは魔石を換金できない。仮証明書を発行するから、3日以内に1万ミネラを持ってきてくれ」
門番は中位魔物の魔石におどろいているようにもみえた。手持ちにはまだたくさんの中位魔物の魔石があるから、全部みせたら騒ぎになりそうだ。
ミネラはお金の単位で合っていたようで、魔石の価格も知れたのはよかった。
「わかった。あとでギルドへ行って換金してくる。ところでこの街では、1000ミネラあれば、どの程度の食事や宿屋へ泊まれるかを教えてほしい」
「あくまで庶民の価格だが、1000ミネラがあればアルコール抜きで朝昼晩と食べられる。宿屋は食事抜きで2000ミネラあれば1日泊まれる」
1ミネラを1円で考えて大きな差異はなさそうだが、宿屋の値段は日本のビジネスホテルに比べれば非常に安い。全体的に安めの感覚が必要だろう。
「この街での価値観が分かって助かった。教えてくれてありがとう。あとで魔石を換金してくるから仮証明書を発行してほしい」
「わかった。仮証明書の場合は位置情報リングを着けてもらう必要があるから、一緒に詰所へ来てほしい」
門番に着いていって部屋の中に入ると、椅子に座らせられて説明を受ける。
仮証明書は手のひらサイズの焦げ茶色の木で、片側に仮証明書と書かれていて反対側は模様があった。3日以内に1万ミネラか、ギルドなどで発行される身分証明書を詰所まで持ってくる。1万ミネラなら滞在証明書を発行してもらえる。
身分証明書の発行は3大ギルドである、商工ギルド、冒険者ギルド、農業ギルドがおすすめらしい。
仮証明書の段階では、街中で逃げないように位置情報リングをつける。魔法を使って指から取れないようにするが、滞在証明書か身分証明書になった段階で位置情報リングを外してくれる。
「ここまでの説明は大丈夫か。分からない部分があれば補足する。問題がなければ仮証明書を渡して、位置情報リングを着けてもらう」
「俺は問題ない」
「私も平気ですわ」
俺とレネが答えると仮証明書をそれぞれ渡してくれた。
「くれぐれも仮証明書をなくさないでほしい。位置情報リングを取ってくるから、このまま少し待っていてくれ」
門番は部屋を出て行って、1分も経たないうちに別の男性を連れて戻ってきた。
位置情報リングに指を通してからテーブルの上へ手を置く。新しく来た男性が呪文を唱えると、位置情報リングが指を少し締め付けた。
「これで仮証明書の発行は完了だ。あとは門の近くにある犯罪者認識板に手をかざして、青色になれば街へ入れる」
俺たちの前にいた商人たちが手を乗せていたのは、犯罪者認識板だったようだ。門番の話では各国や街、各ギルドで犯罪者と認定された者がわかるたしい。
あとは部屋を出るだけとなったが、街へ入る前に門番へ聞きたい内容があった。
「ひとつだけ聞いても構わないか」
「何か不明点でもあるのか」
「街へ入ったら神殿へ行きたいが、おすすめの神殿があれば教えてほしい」
きっとレネが行きたいはずなので、最初に訪れるために場所を知りたかった。
「信仰は自由だからおすすめはいえないが、守護の神アコトカと生命の女神アコトマが代表的な神殿だ。どちらの神殿もたいていの街には存在している」
「ありがとう、それぞれに寄ってみる」
門番から場所を教えてもらって、この門からはアコトカ神殿が近かった。部屋での用事が終わって、門の近くで犯罪者認識板へ手をかざすと俺とレネは青色だった。
「確認が終わった。ルーペンの街を楽しんでくれ」
門番に見送られて、俺とレネは門を通り抜けてルーペンの街へと入った。
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